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バンジージャンプ。それは意外と楽しめる。

私は楽しめませんでした。(´・ω・`)キリッ。

「すいません。昨日俺、クライス女王に呼ばれまして。通してもらえますかねぇ?」


ニッコリスマイルで塔の番人に挨拶。訝しそうに俺を見てきたが、通信用の魔法道具だろうか、プリズムキューブに話しかけそのあと俺を通してくれた。浮遊箱で上に登りながら腰のバックから二本ある水筒のうち一本を出して飲み、一息つく。


「…全員が敵って訳じゃないんだな。」


三段ある塔を順々に上っていき、ついに三段目。昨日も来たところだが今回は一人。浮遊箱から降りて装備をもう一回確認。手甲にコート、六本の投げナイフとブーツにレガース。あとは脱出口。後ろに浮遊箱が三つそれと螺旋階段。その全部が女王の間の外にある。


「…もう一回扉潜んないと厳しいか。」


意を決して扉を叩く。さてと…こっからだ。



「あら。お待ちしてましたよ。」


「どうも。…お付きは?」


玉座からスッと降りてこちらに歩いてくる。服装は昨日と同じくドレス姿。


「追い払いましたよ。余計な邪魔されたくありませんもの。」


クスリと笑って俺に歩み寄ってくる。何処と無く危険を感じて話題を反らす。


「そう言えば…ここ。全面ガラス張りだけど…何か意味あるのか?」


「うーん。答えてくれたら私の質問に全て答えてくれますか?」


流し目で俺に語ってくるクライス女王。…何だこの人。だけど今は情報が欲しい。


「考え「考えておく。は無しですよ。」


「…分かった。」


その答えを心から待ち望んだように笑い、ガラス張りの窓の一枚に早足で駆け寄ると


「…ここは王の間じゃないんですよ。ここは本来、魔法使いの間。この広い世界の魔法使いがこの国を見つけるより早く、こちらから、苦しんでいる魔法使いを見つけてあげられるようにね。」


「…そうか。」


「ええ。」


男性なら誰でもコロリと落ちてしまいそうな笑顔をみて確信した。



─これは一人だ。



そして確実にソイツは


「失礼します。」


そう言って現れたのはイレウス。背後に10人ほどの兵士ともう一人。昨日は見かけなかったマントの人物。


「…何の用?彼との話は邪魔しないで。と言ったでしょう?」


怒りを露にするクライス女王。視線をイレウスに向けながらクライス女王の近くに歩み寄る。


「いや、昨日伝え忘れてしまったことがありましてね?」


クライス女王からは見えないだろうが奴は笑っている、それも単なる笑いではない。


「何?早くして。」



「そうですか。では─消えてください。」


その号令と共に一斉に矢が飛んできた。


俺は身を投げ出して能力を解放。飛んできた矢を手甲で凪ぎ払い、左脇に茫然としているクライス女王を抱え込み玉座の後ろまで片腕で払いながら逃げていく。やはりというか片腕では払いきれずに何本かは掠め頬や髪を斬っていくが致命傷は受けずに玉座の後ろに退避。玉座に次々と矢が当たっては弾かれているのが音から分かる。


「女王様!聞こえていますかぁ!」


イレウスが扉の前から大声で怒鳴り付けてくる。


「死んではいませんよねぇ!」


狂喜に満ちた声を勝ち誇ったように叫び、いやわめき散らしている。


「まぁ…いいか。おい!黒狼!生きてんだろぉ!!」


「うるせぇな……」


「お前聞いてくれねぇかなぁ生きてますか?ってよぉ!」


クライス女王の様子を横目で確認すると、深紅の目を一杯に見開いて茫然としている。


「女王様!お願いなんですが!この国を下さいませんか!帝国の参謀として何か手柄あげたいんですよぉ!!」


相変わらずキィキィと喚いている男を無視して現状を確認。恐らく隠し通路なんてないだろう。ここが王の間ならまだしもここは本来魔法使いの間。そんな機能があるわけがない。


「………のに………」


「ん?」


「…………の…………のに。」


段々と大きくなっていく声。そしてはっきりと


「魔法使いの為の、国なのに……!」


その声ははっきりと驚きと動揺そして怒りを孕んでいた。


「おい、女王様。」


意識を取り戻したクライス女王をこっちに向かせる。


「とりあえずここから脱出しよう。まず情報が欲しい。」


玉座は意外としっかりした作りらしく、未だに矢は貫通してこない。それどころか跳ね返しているのもあるようだ。


「だ、脱出って…こんなに絶望的なのに、」


「絶望的ではあるけど…幸いなことに司令官が馬鹿だ。」


こっちが身動きがとれないのだから何人かを玉座に回り込ませれば俺が反撃に出ても殺せるだろうに貫通できない玉座に矢を打ち込ませている。


「…そうですね。」


いつも…というほどは見ていないが、クスリと笑い、


「玉座は貫通してこないです。そして出口は今、アイツが立っているあの一つだけ」


おおぅ…アイツときたか。この人は怒らせたらいけない人だな。


「じゃあ、最後に一個。…西ってどっち?」


「西?ですか。それならあっちですが。」


玉座の左横を指差す。


「よぉし。」


コートを脱いでクライス女王に渡す。


「次で仕掛けましょう。俺の後に続いてください。」


「…わかりました。」


ここからあそこまでは10mほど。そう思った瞬間、背中に悪寒。本能的にヤバイと感じ、失礼ながら女王様の首根っこを掴んでしゃがませた瞬間、バゴォォォォン!!という轟音と共に矢を弾く玉座の背もたれ部分が怪獣に噛み千切られたように吹き飛んだ。


「走って!」


連射は不可能と判断して走り出してもらい、俺もそれに続く。走りながら確認するとマントの人物がこちらに真っ直ぐ左手を伸ばしていた。恐らく吹き飛ばしたのはアイツだろう。


「そっちはガラスしかないぜぇ!」


「ああ、そうだ……」


クライス女王が到達するよりも早くつき、右腕を引き絞る。手の形は鉤爪状。


「なぁ!!」


狼撃を打ち込んで見たところ意外にもあっさりバシャァァァン!!という何枚ものガラスを纏めて割ったときのような凄まじい音と共に砕けてくれたので、クライス女王をしっかりとお姫様だっこして下の昨日使った他のエリア行きの浮遊箱の近くにダイブ。能力で脚力も上げていたので痛みも少なく、イレウスが排除したのか見張りのいない浮遊箱の一つに女王を押し込んで、発進させた。









不思議な人物だ。私の魔法を直接ではないにしろ受けたというのに直ぐに行動した。中々あんな人物はいないだろう。


「おい!ティリア!貴様俺の指示が聞けないのか?!」


この男とは大違いだ。答えるのも億劫だが面倒はもっと億劫なので、飛んでくる唾をマントのフードで防ぎながら


「私が受けたのは貴方の守護。あれ以上はする義理はない。」


と返す。私のその態度に腹が立ったのか、他の部下に当たり始めたソイツから視線を外し、黒い影が消えた方を見る。


…今度は邪魔の無いところで、勝負を。


背中に指した剣が来る時を期待するように僅かに鳴った気がした。





「あ、あのぅ、大丈夫でしょうか?」


「心配無いわよ。いざとなればノッチがどうにかしてくれるわ。」


アニエスが人を慰める珍しいシーンと物凄い責任転嫁を背後に感じつつ、ウエストエリアの大通りを歩いていく。観光目的ではなくここに来る予定のユウと待ち合わせるためだ。


「それにしても、絶対アイツよね。イレウス。今度見たら殴ってやるわ。」


そう言えば昨日の作戦会議のあとユウが言っていたことを思い出す。


『多分つーか、イレウス。アイツは馬鹿だ。』


『随分だな。』


『気を付けなくちゃいけないのが─



─馬鹿は何するか分からない。か。」


戦場でもそうだった。馬鹿ほど回りがどうなろうと関係ない。


その思考を裏付けるように、ウエストエリアの塔から一匹が出てきた。


見た目は鶏なのだが、デカイ。恐らく4mはあるだろう巨大鶏。


「…バシリスク……!」


アニエスの声に反応したのか、キョロキョロ動かしていた首をグルリとこちらに向けると、キシャァァァァという奇声を上げてパニックの群衆を踏み潰すかのようにこちらに真っ直ぐ突進を開始した。


「本当に形振り構ってこないなオイ!」


大剣を抜き放ち鶏擬きに向かってかけだしていく。


「ノッチ!確実にアイツのせいよ!合流したらブッ飛ばすわよ!!」


アニエスの叫びを聞き流しつつ


「まぁ…あれをどうにかするか!」


「わ、私も!」


システィが後ろから付いてくるので


「危ないですから下がっ「ユウさんを殴ります!あ、あんまり殴ったことって無いですけど…頑張ります!!」


「その意気よ!!」


この場合、論点のズレを指摘すべきか、敵に注意を向けろ!と言うべきか。


「先ず鶏擬きだ!」


やるせない気分をぶつける対象があって良かった。心からそう思えた。



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