三分クッキングって全力でやったら意外と三分でクッキング出来る。
本気で試したら出来ました。メニュー?だし巻き玉子です。(´・ω・`)
「イレウスさまは…魔法使いではないんです。」
「そうなのか?」
時間が時間だったので飲食店でお腹を満たしてから宿屋に向かう最中システィがポツリポツリと話始めた。
「…以前この国の外交が少し覚束なくなったときに、相談役として来たのですがその時の働きで…そのまま。」
「でもアイツ何か隠してるわよ。」
私がそう言うとシスティは俯いて黙ってしまった。
「うーん、ユウならこういうときにアイデアが湧いて出てくるんだがなぁ…。」
ノッチは頭の後ろで手を組み、完全に思考諦めモード。確かにユウなら色々でてくるのだろうけど、今調べたい事があるらしく今は別行動中だ。
「まぁ、気になったら聞けばいいんじゃない?ユウもそうするだろうし。」
「いつの間にユウって呼ぶようになったんだ?」
…しまった。
「最初は違ったのですか?」
「ああ、最初はアイツって呼んだり喋りかけるときは『ねぇ。』とか言って名前は呼ばなかったんだけどなぁ。」
「心境の変化…ですかねぇ。」
「それの線が濃厚だなぁ。」
…この話題から私はさっきから弄られている。別にいつまでも名前を呼ばないと不便だからそうしただけだ。向こうにもその際にアニエスと呼ばせるようにした。弄られるのはアイツの役割なのに。
「それよりも…出てきなさいよ。」
私の問いに答えるように角からチンピラもどきが出てきた。その数─6人。
「…何のようだ?」
ノッチの発言など聞こえなかったかのようにチンピラは一斉に襲いかかってきた。
カシャン。儚く砕けるその音を聞くのももう7回目。
そしてその後の、
「も、申し訳ありません。ええと…」
店員のこの反応は数えきれない。
「またのお越しを……」
店に出て溜め息を吐く。俺は気になること、つまり『何故俺に回復魔法が効かなかったのか。』を試すため、手当たり次第に店に突撃。もうとっくに治った背中の痛みをとってくれ。と注文し検証したが、結果は全敗。
「…多分俺は魔法が効かない……いやそれはないな。」
一番怖いのが効かないと思っていて効くことだ。
「攻撃魔法が効くのかはまたの機会にして……お前らはなんの用?」
店からずっとついてきていたチンピラらしき人物に後ろ向きのまま声をかける─物陰からの陰は6。
「…俺に用なら喋ろうぜ?」
その問いには答えることなく一斉に襲いかかってきた。
「はい。じゃあ聞かせてもらおうかしら?」
「わ、分かった!分かったからリーダーを返してくれ!」
襲いかかってきたは良いもののノッチが秒殺。諦め悪く私に来たのが運のツキ。ただでさえイラついている私にメイスで腹に一撃を食らい、足元でうめいている。
「じ、実はあんたら観光客からスろうと思ってて…」
エヘヘと笑いながら喋るソイツの首根っこを掴んで近くの噴水に頭から沈めにかかる。
「私、聞きたいんだけどなぁ……。」
「わ、分かった!分かった!!許してくれ!ソイツ死んじまうから!!」
あっさりと口をわるようなので水面から引き上げメイスで二人をどつきかえす。
「イライラしてらっしゃいますね。」
「恋人がいないから寂しいんだろ。」
「どうりで……」
「二人ともうるさい。」
それは関係ない。…関係ない。
ゴボゴボと俺の下から変な声が聞こえてくる。そう言えば何かの本で読んだのだが水面に顔を押し付けられたら間違えても口を開けてはいけないらしい。何でも口からあっという間に肺に水が入ってしまうので致死率が上がる。とか何とか。
「止めてくれ!ソイツ死んじまうから!何でも話すから!!今度は嘘なんてつかねぇ!!」
ザバァァァァとチンピラを水面から引き上げると咳き込み始めた。咳き込むなら安心だと思ってついさっきボコったチンピラ達の足元に放る。
「さて?聞こうか。」
ニッコリと菩薩の笑み。きっと俺からの後光に押されてくれたのかチンピラが喋り始める。
「長身のマント被ったやつに頼まれたんだよ!アンタ…いや!貴方様!貴方様を連れてこいって!」
「そ、そうだよ!貴方様の仲間のとこにも俺らと同じ数!それで捕まえたら銀貨50枚って言うから!」
アニエスのとこにも行っているようだが、まぁノッチがいるから大丈夫だろう。アニエ……システィは大丈夫かな?
「で?捕まえたらどうしろって?」
「つ、捕まえたら貴方様ともう一人の男性はサウスエリアに連れてこいって。金髪の女性は好きにしていいって。」
「もう一人は?」
「へ?ええ、システィ様はセントラルエリアにお連れしろ。って。」
「?様?」
俺が眉を寄せると慌てて、
「す、すいません!金髪の方の女性は貴方様の愛人だから確実に捕らえろと!!敬称もつけずに呼び捨てにしてしまい…」
よく意味の分からないことを口走ったソイツの首根っこを掴んで水面に強制ダイブ。三分クッキングのメロディーを口ずさんでから、チンピラの水漬けを水から上げる。
「……で?」
「も、申し訳ございません……」
地面に盛り付けてから振り向いて、右手の水を払って再度質問。
「他に喉が渇いてる奴はいない?」
返事は全員NOだった。
「で?何でシスティだけ様呼び?」
「申し訳ございません!」
「…アンタも喉が渇いてる?」
足元でビクンビクンしているチンピラを踏みながら質問。ユウの方の人数を聞いただけなのに彼氏とか言い出したのでチンピラの水漬けを作る羽目になってしまった。
「い、いいえ!システィ様はこの国唯一の魔法使いなので!!」
「?どういうことよ。」
「……それは私から。」
後ろでノッチと一緒にいたシスティが私に近づいてきてチンピラ達を解放したあと、
「宿でお話します。」
絡み付く何かを振り切るように毅然とした口調でそう言った。
「良くても一つ。魔法が使えれば魔法使いなんす。」
「一つだけじゃないってか?」
いつまでも噴水にいるのは目立つので近くにあった飲食店に移動し、話を聞くことにしたのだが店員さんが俺の事をリーダーと勘違いをしたらしく、『どうぞ…ごゆっくり……』と声を絞り出した後ダッシュで去ってしまった。だからテーブルには水しかない。
「女王は三つ。あと何人か二つ使えるのがいて、一つだけなのに別格が一人。それだけだったんす。」
「だけどシスティ様は全部使えるんですよ!まぁ…得意不得意はあるみたいなんすけど……」
「で、イレウスに勧誘されてたのか?」
唯一提供された水を飲みながら聞いてみた。
「そうっす!…最近ですかね、もうしょっちゅう勧誘してたらしくて。何でもですね、『使うべきときに使わなくてどうするんだ!』とか言ってまして。」
入国前のあの一件はイレウスのストーカーじみた追い込みがあってのことだったらしい。沸き上がってきたイレウスに対する気持ち悪さを水と一緒に飲み込む。
「最後にもう一個いいか?」
「はい!なんすか!」
「魔法で生物って作れるのか?」
「作れないことも無いらしいですけど…熟練の、ああそれこそシスティ様みたいな。そのクラスじゃないと無理っす。…それが何か?」
「ん、少しな。」
水を飲もうと手を伸ばしたがそう言えば運ばれてなかったことに気づいてそのまま頭を掻いた。飲食店を出るまでくっついてきたチンピラを振り切り、情報を整理するため宿へと向かう。
「…何か食ってから行こう。」
今日はまだ何も食べてなかった。
「遅い!」
鋭い気合いと共に打ち出されるメイスをしゃがんでかわす。しかしそのままバトンのように一回転させ、俺の顎を下から遠心力の一撃で撃ち抜こうとする。しゃがんだ体制から能力で脚力を上げてその場でバク中してやり過ごし、着地と同時に後ろに飛ぶと先程俺がいたところに両手で振りかぶったメイスの一撃。床が一部砕け、木片を散らした。
「何処まで行ってたのよ!!」
「…え、ええ?あ、あのぅ……」
「大丈夫ですよ。夫婦間のコミュニケーションですから。」
ノッチが間違いしかない説明でシスティに説明しているが、それを正す元気はなかった。
「何?アンタも襲われたの。ふーん。」
「まぁ、調べることは出来たからな。」
とってもらった宿で休憩しながら現状の確認。椅子に座ったノッチが俺に聞いてくる。
「最初に会ってから変な感じしたんだよなぁ…アイツ。」
「とりあえず依頼をしたのはほぼイレウスで間違いないよな?」
「ああ、どうやら俺らがいると迷惑らしい。」
疲れたのでソファに寝ながら答える。
「私のせい……ですかね。」
同じく椅子に座ったシスティが申し訳なさそうに謝ってきたのだが、
「謝る必要は無いわよ。巻き込まれるのはユウの専売特許だから。」
ベットに座り俺を足で差すアホが一匹。
「まぁ…イレウスが何企んでんのか知らんがろくでもないことだったら阻止しなきゃな。」
「だな。とりあえず明日はノッチ達はウエストエリアに向かってくれ。そこで身をかくそう。」
「なるほど?観光用なら宿も多いしな。」
「俺はちょっと調べものが残ってるからそれが終わったら合流する。」
「「調べもの?」」
ソファの上に置いた飲み物を飲んで一息。
「これ考えたのが一人なのか二人なのか、な。」




