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よく考えて発言しないと後悔することだってままある。

「グルァアァ!」


獣らしい咆哮をあげて突進してくるウルフの一匹を払うように裏拳で一撃。払いのけたところに俺の死角からもう一匹。前転の要領でかわしたのだが僅かに爪が頬を掠めた。すぐに起き上がると一匹目より上から飛びかかってきたウルフの顔を掴んでさっきかわしたウルフに投げつけ、身動きを封じたところで、思いっきり右脚を降り下ろす。





「─だから、毎回グロい。」


アニエスが心底嫌な物を見たように顔を歪めている。


「しょうがないだろ。」


王国に入り、ギルドへの道中何故か俺は説教を受けていた。


「今回の依頼はウルフの駆除、生け捕りじゃないんだから何の問題もないだろ。」


「私の精神衛生上よろしくないのよ。もっと綺麗に狩れないの?」


そう言ってるこのアホもメイスで撲殺しているから人の事は言えないと思うのだがグッと我慢。


「それにしてもアレね。アレよ。」


突如痴呆が始まったのかと一瞬ガチで心配して


「…後衛のメンバーがいないわね。」


「ああ…そうか。」言われて気付く。


大抵のパーティと言われるものには後衛が存在する。ドラク〇然り、メルス〇然り。


「俺ら前衛ばっかりだな…」


「正しくは前衛二人とゼロ距離一人だけどね。でも…魔法使いは仲間にしたいわね……」


「居んの?魔法使い。」


ファンタジーと言えば切って離せないのが魔法使いだろう。大抵のファンタジーに魔法使いは出るし、魔法使いが出るのは大抵ファンタジーだ。そこで俺は素手な訳だが。


「うーん。能力の一種よ。たまにいるのよね。そうゆう感じの能力もった人が。お父さ…ゴホン。王国ではそうじゃないけど国によってはまだ排他的な考えのところもあるから、魔法使い達が集まって出来た国があるの。それが


『魔法国家─ティエルフール─』。


 まぁ、国からの依頼で行ってもそれ自体がもう滅多にないこと。」


「…ましてや国が領土権の取り合いをしてるこのご時世に余所者を入れたりしない。か……」


「へー、分かってるじゃない。特に帝国がしつこく勧誘してるらしいけど、まず無理ね。そうゆう性格の人はいないから。」


そこまで喋ったところでギルドが見えてきた。


「そうだ!私簡単な魔法道具持ってるんだった!」


凄く目を輝かせてそう言ってきた。こうやって普通にしていれば充分美少女なのに、何故中身が一致しないのか。


「…今凄い失礼なこと考えたでしょ。」


どちらかというと本心からの声です。とは言えないので、


「いいや?それより魔法道具って?」


話題を反らす。普通なら乗ったりしないのだが、


「!そうよ!いいものなんだから、先にギルドで待ってなさい!」


と言って恐らく自宅に走っていった。


「…あっちって王宮しかないけどな。」


多分迂回して反対側に行くのだろう。言われた通りに先にギルドへ。




「はい。お疲れ様でした。」


いつもニコニコ笑っているメリルさんに今回の活動を報告してカウンターへ。ずっと愛飲しているウーロン茶風の飲み物を頼み、手甲を外し飲んで一休み。


「…ティエルフールか……」


「お?何だ何だ?次はそこにいくのか?」


独り言のつもりだったのだが聞こえてしまったようだ。


「そうじゃないけどな。ただ……」


「ああ、アニエスちゃんなら無理にでも行きたい!って言うだろうな。」


と、双剣使いのおっさんが賛同してくれた。


「アニエスちゃん、意外とメルヘンだからねぇ。」


メリルさんも暇になったのかこちらに来て会話に参加してきた。


「メルヘン?アイツが?」


「ええ。女の子はいつだってそうなんだから。」


「ハハハ。そうかもな。あ、メリルちゃんこの仕事行ってくる。」


おっさんは依頼状をメリルさんに渡すと仕事に行ったようだ。


「しかし、アイツがねぇ……」


メルヘンというならまず武器をどうにかした方がいいのでは無かろうか。


「あら、駄目ですよユウさん。女の子はデリケートなんだから優しくしてあげないと。」


やんわりとたしなめられてしまった。少し居心地が悪くなったので


「はい。分かりましたよ。」


と、返しておく。するとニッコリと笑い、


「だから私もちゃんと労ってくださいね?」


半分ほど飲んだ飲み物を流し込みながら、冗談半分に


「いや、メリルさんは女の子って歳じゃ」


直後に背中に悪寒。ギルド内の気温が一気に下がり、全員が俺から距離を取り始める。ヤバイ。これはヤバイ。俺もスツールから脱出しようとしたところ、ガンッ!と鋭い音がした。恐る恐る視線をカウンターに持っていくと俺の手の少し前をメリルさんの手が突いている。それまではいい。問題は俺の狼撃のように広げられた指が能力でもないのに磨きあげられたカウンターに少し刺さっている。


─ああ、地雷を踏んだ。それもいっちゃんヤバい奴。


「─ユウさん。」


何故か顔を上げないメリルさんが語りかけてくる。


「…はい。」


そのままの体制で顔をグイッと俺の方を向けて笑いかけるメリルさん。後ろのメンバーが一斉に『ひぃ!』と情けない声をあげるほどにメリルさん─いや、怪物の笑顔は恐ろしかった。


「─私の歳が、何ですか?」


さて、ここで重要な選択肢だ。


ひとつのミスで俺の人生が終わってしまう。考えるんだ。生き残るための道を。


しかし出てこない。最適な切り返しが思い浮かばない。そんな時─




「お待たせ!いやぁ、意外と奥にあって…ってなにしてんの?」


何も知らないアニエスが登場。メリルさんは速攻でいつも通りに戻り、


「いいえ?何も?ね。皆さん?」


おれを含め一斉に首を縦に降る。


「?まぁいいや。それよりユウ!これを見なさい!」スツールに腰掛け、少し厚めの掛布を取り除くと、


「なにこれ。瓶?」


薄いガラスで出来た高さ20cm位の瓶が現れた。中身は空かと思ったが蓋にあたる部分が瓶と一体になっていたのでよく見ると蜃気楼のような物がゆっくりと瓶全体を漂うように巡っている。


「違うわよ。これは『魔力検出器』。


その名の通り使用した者の魔力の有無を検出する機械みたいなもの。」


「どうやって使うんだ?」


「んと。まず利き手で瓶を持って。」


言われた通りに右手で瓶を持つ。


「そしたら自分の中心を意識して。」


「中心?」


アニエスは自分の胸の中心を人差し指でトン。と突き、


「そ。心臓辺りをイメージするといいかも。」


目を閉じて深く深呼吸。自分の中に意識を集中してると揺らめく何かを感じた。


「分かった?」


「ああ、っぽいのは見つけた。」


それを確認したアニエスからの次の指示を目を閉じたまま聴く。



「じゃあ、それをゆっくりと右手に持っていって。」


またしても深呼吸を繰り返しながら、ゆっくり、ゆっくり右手に何かを持っていく。


「ちょっと。水晶光ってるわよ。能力使うのは反則だからね。」


「いや。使ってない。気のせいだろ。」


目を閉じたままなので短く返して手に魔力?を送っていく通ったところからざわめいていつも力を籠めている感じとは少し違う。これが魔力だろうか。


「…よし。きたぞ。」


「そしたらそれを体の外に出すイメージ。分かりづらかったら、手に少しだけ力を込めると良いかも。」


GOが出たので、ほんのすこしだけ力をいれると、


─まず今まで感じたことのない力の上昇を手に感じ、


─ヤバい!と思い目を開け、手を離そうとしたとき、手が一瞬、本当に変化したように見え、


─それと同時に手から何かが放たれ、


─アニエスいわく貴重なお高い魔力検出器は氷を砕いたような音と共に呆気なく砕け散った。




思わず自分の手を見つめる。錯覚じゃなければ、あれは…


「きゃ…」


絞り出したような叫びが隣から聞こえてきた。見ればアニエスは呆気なく砕け散った瓶(底のみ)をじっと金の両目をいっぱいに見開いて見ている。口は半分ほど開いている。両手は占い師が水晶を覗き込む時のように、何かの念を送っているようだ。


ワリ。と俺が謝るより早く、


「きゃあぁぁあぁぁああぁあ!!」


と、怪鳥じみた絶叫と、まさに翼を広げた猛禽類のように俺の胸ぐらを締め上げ、


「何て事してくらたのよぉっっっぉ!!」


と、猛抗議。噛んだのを気にしてない事から怒りの深さが伺える。


「で、でんしゅ、弁償しまさいよぉ!!金貨3枚!弁償しなさいぃぃ!!」


俺の胸ぐらを相変わらず絞めながら、黙っていたら可愛らしい顔から唾をスプリンクラーのように俺の顔に噴射しつつ、詰め寄り続ける。スツールの上でそんなことをしたものだから、二人してバランスを崩し俺が全ての落下エネルギーを受ける形で床に落下。落ちたときに拘束が外れたが、ウルフもびっくりのスピードで起き上がると同時にいつの間にか抜いていたメイスで俺の脛を一撃。折れたかと思うほどのダメージを負わせたと言うのにまだ怒りのボルテージが下がらないのか俺のマウントを取り、首を再度締め上げ、今度は床に連続で俺を叩きつけ始めた。


「かうぇせぇ!わたじの、わだじのまぼうげんじゅづぎ!!がぅぜぇぇぇ!!」


最早、何を言っているのかさっぱりわからない。というか『まぼうげんじゅづぎ』って何だ。


「あー!落ち着けって!!」


俺の首をホールドしていた手を振りほどいたところで、またしてもホールドしてこようとするので、両手で両翼をガッチリと止める。


「分かったよ!弁償すればいいんだろ!」


「うう…分かってないわ。今ティエルフールに入れること自体まずないのよ。」


弁償。というワードでようやくアニエスは怪鳥モードを解除したが、問題は解決していない。


「ずっと夢見てたのに…いつかいくんだって、思ってたのに。」


先程とは違い、明らかに深い悲しみからの涙だろう。それくらい分かる。


「…アニエス。」


少し上体を起こしてアニエスの肩を持ってこちらを向かせる。俺がここでするべきは


「壊して悪かった。あれほど脆いとは思わなかった。」


瞬間、保護欲を掻き立てそうな泣き顔が


殺意を凝縮した怒り顔に変わり、


俺は物凄い衝撃を感じ、意識を無くした。






「あーあ、今日も無いか。」


アニエスが自分の倍もある依頼板を隅から隅まで確認を終えて、項垂れる。



「一枚、二枚…はないよなぁ……」


俺が自分の財布に中身の倍の金額を求めて隅から隅まで確認を終えて、項垂れる。



「「ハァーーー。」」


「おいおい……これから仕事だぞ。今からそんなことじゃ…」


ノッチが呆れながら俺らに諭してくる。


「「大丈夫だ(よ)。」」


俺がグラスを煽ると隣でもゆっくりグラスを傾ける。



あのあと、俺は金貨3枚溜まり次第、無理にでも弁償する。そしてギルド内でのドリンクのおかわり代は俺が全額負担という条件でどうにか許してもらい、今自分の財布と閣僚会議を開いている。


「もういいのよ。あれは。でも、ティエルフールに行きたいなぁ…。」


アニエスは仕事はしっかりやるのだがそれ以外はずっとトリップしている。


「なぁ、ノッチ。ティエルフールって何かこう、凄いのか?」


「ガキの頃によく摩訶不思議な動物がいる。とか、空飛ぶ絨毯とか聞いたけどな。」


「アニエスちゃん、平気?」


そう言ってアニエスのグラスにおかわりを注いだのは、


「あ、メリルさん…」


恐らくこのギルド最凶の人物。メリルさん。


「ティエルフール行きの仕事って……」


「まだないわねぇ。」


「ですよねぇーーーー。」


突っ伏したまま体ごとずるずるとメリルさんににじりよるアニエス。



「そんなに行きたいの?」


「う~。子供の頃からの夢なんですよぉ」


「ですって。ユウさん。」


「何で俺に振るんですか。」


「じゃあ、どうすればユウさんは諦めてティエルフールに行くんですか?」


メリルさんが首を傾げて聞いてくる。


「そうですね…俺が選んだ依頼状がティエルフール行きの仕事だったらいきますよ。アニエス行くぞ。」


土台無理な話だ。俺が選ばなければいいのだから。仕事を選ぶのは俺の役割だが、そう都合よく手配なんて出来ないし、もし出来たとしても、絶対にそれは選ばない。


だから大丈夫なのだが、


「…その言葉、確かに。」


ギルドを出るときのその声に悪寒を感じずにいられなかった。



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