相手を思って殴れるのは親友。殴るのが好きなのは単なるサド。
またしても少し長めで。(´・ω・`)
今日から不定期に早くなるのでお願いします。
毎週水曜の正午の更新は変わりありません。
「行くぞ!」
その声と同時に駆け出す二人。アイツが先行してその後ろにノッチが続いている。
オークは怒りをそのままに左腕を突きだした。
「見えてんなら、あたんねぇよ!」
アイツは寸前で真上に跳躍し一撃をやり過ごしたあと、あろうことかそのままオークの腕をかけ上がっていく。オークも一瞬驚いたようだが右腕を伸ばし迎撃しようとしたのだが
「─忘れてねぇか!?」
懐に潜り込んでいたノッチの一閃。オークの右脇腹を浅く切り抜いていき、すぐさまノッチに視線をむけるがその一瞬の隙に今度はアイツがもう顔まで接近していた。
「うらぁ!」
オークは野生の勘か、首をかしげ、かわそうとしたがその大きさでかわせるわけがない。口から突きだしていたキバを一本へし折られた。折った本人はそのまま空中で一回転して後ろに着地。着地を狙ってオークが腕を振りかぶる。がそれは遅い。今度はノッチが左の脇腹を深く切り裂く。怒りの咆哮とともに先ずはノッチから倒すことにしたのか、横凪ぎに左腕を振るが能力を解放したノッチの大剣で防がれる。すかさず右腕の降り下ろしで潰そうとするがそれも遅い。ふとオークは頭頂部に軽い違和感を感じ視線を上げる。そこにいたのは黒い影。コートの裾を翻し降り立ったのだろう。そしてオークはゾッとするような笑みを向けらけ、その後衝撃。何が起きたかよくわからなかったが、オークの命はそこで途切れた。
「…さて、これどうする?」
今になって自分の戦闘後がいかにグロいか思い知らされた。向こうには頭に穴の開いたオークがいる。
あのとき攻撃を幾つか与え、一番ダメージが通ったのが頭と判断したので思いっきり手を引き絞り指を鉤爪のようにしたところ、力の篭り方がいつもと違ったので、行ける!と思ったが結果としてオークの頭が爆散するというグロいをはるか下に見る結果になった。オークの下にいたノッチは大剣を盾にして返り血を防いだ。アニエスは元々当たる位置にいなかったが、俺はもろに浴びる結果となった。
何とか空気を変えたくてノッチに助け舟を求める。
「そのまま残していいだろ。いずれウルフ達が食ってくれるさ。」
助けてくれはしたのだが視線が痛い。
「まぁ早く戻って報告だな。」
そういって出口に向かって歩き出すノッチ。後を追おうとして自分から滴る血を軽く身震いし、払う。
「黒狼さん。」
「何だよ。」
身震いしてあらかた血を飛ばした俺にアニエスが話しかけてきた。
「頭。傷に塗っときなさい。」
軽く放られてきた物を受けとるとどうやら軟膏らしい。血が出ているなら切り傷だろう、染みたらどうする。と言いたいけど有り難く頂戴しておく。蓋にしっかり『打ち身用』と書いてある。…有り難く頂戴しておく。
「…今分かったわ。あんたの武装が黒い理由が。」
俺が予期せぬプレゼントを手に立ち尽くしていると、アニエスが後ろから納得した声で話しかけてくる。
「…返り血が黒だと目立たないからよ。」
本当に見たままの理由な気がしたが、否定するには証拠と根拠と…何より元気が足りなかった。能力をまだ切っていなかったので切ろうとしたとき、鉄臭さを感じ勢いよく振り返る。まだ敵が?と視線を巡らせそこまでしてから自分のコートから発生していることに気付く。
「…どうした?」
ノッチが不安そうに聞いてくる。不安の矛先は敵ではなくきっと俺の頭。
「…聞かないでくれ。」
早く帰りたい。
「うおらぁぁぁっ!!」
先程身につけた必殺の一撃をオークに対して放ったときよりも力を込め、放つ。確実に当たると思ったのだがスツールの間を器用に飛び越えかわされる。先程の戦いでも感じたが投げナイフでも採用するか。
「落ち着け!ユウ!」
「落ち着かない!離せノッチ!!」
後ろからノッチに羽交い締めにされてしまった。これでは追撃ができない。
「アイツが!アイツがこれを!俺らに押し付けたから!」
元凶─チョウガはスツールにゆっくりと座り直し、右腕をゆっくり上げ、
「お疲れ。」
と、宣った。
「しかし…オークか…ワシが行ったらいなk…ごほん。」
「見ろ!ノッチ!!アイツ知ってたぞ!!少なくともゴブリンはいるって!!」
引きずられながら指さして抗議。
「いやぁ…お前らじゃったら平気かな。っとワシ思ったんじゃよ。じゃから…まあ。」
一拍置いて
「すまん。」
二人で同時に駆け出す。オーク戦を経験したノッチと俺のコンビネーションならきっと行ける。─殺れる。
「落ち着けお前ら!」
ギルドメンバーに止められてしまった。
「そうよ。落ち着きなさいって。」
スツールに腰かけのんびりと何かを飲むアニエス。
「…そうだな。落ち着くよ。」
全身の力をゆっくりと抜いていく。
「─後ろでガクガク震えていたアニエスさん。」
「何よ!」
「はっ!事実だろうが!オークに睨まれて腰抜かしてたろうが!」
「しょうがないでしょうが!オークなんて騎士でも怯むもんよ!!」
向こうもスツールから立ち上がってこっちに歩いてくる。
「むしろあんたが異常なのよ!大丈夫?本当に頭の中身大丈夫?」
俺のコートを掴み、詰め寄ってくる。
「お前こそ平気か?うん?腰平気か?椅子持ってきてやろうか?お婆ちゃんよぉ!」
「な、誰がお婆ちゃんよ!」
「お前だよ!『助けて。腰がぬけちゃったのぉ。』」
「立ってたわよ!しっかりとね!」
「立ってなぁ!しっかりと1歩も動かずに!」
『─あまり喋らないアニエスが。』
『─ああ、素晴らしい掛け合い。』
『─夫婦?』
『─ああ、夫婦だな。』
「「誰と誰がだ!!」」
「あ、ユウさん。」
空気を読まずにこちらに歩いてくるメリルさん。相変わらずニコニコ笑っている。
「こちら、鍵ですよ。」
俺の手に落としながらアニエスを見て、ニコリと笑い
「─ベッドは壊れやすいので気をつけてくださいね。」
アニエスとのコンビネーション攻撃の錬度も急上昇した。




