考え抜いた決め台詞より咄嗟に出た棄て台詞。
試しに長めで投稿。(´・ω・`)
…グロいって通報されませんように。
それに決まった生息地はない。
どこからか現れ、近場の栄えている箇所を襲い、その時得た武器と食糧で次を目指す。その名をゴブリンと呼んだ。
今ゴブリン達は近場のウルフの巣を根城に構え、近いうちにより栄えている箇所─アキュリス王国に侵攻しようとしていた。
唯一の出口を守っているのは二体のゴブリン。彼らの役割は単なる見張りではない。もし彼らより弱いものがここを見つけた場合、速やかにそれを食糧にするため、もし彼らより強いものがここを見つけた場合、速やかに仲間を呼び、手数で圧倒しそれを食糧にするためだ。
だがそうは言ってもいい加減何も来ないのには飽き果てていた。以前一匹の人間に見つけられ、それを取り逃がしたのはボスの命令だった。『アレを一匹捕らえるより、敢えて仲間を呼ばせれば、より多くの食糧が手に入る。』と。納得は出来たがそれきり人間は来ない。第一種族の違うアレの言うことなのだから信用出来ないのだが。
そこまで考えたとき目の前の茂みが揺れた。匂いから二匹。一匹は固そうなオスの匂いだが、もう一匹は柔らかそうなメスの匂いがする。共に出口を守っているゴブリンと、どちらがどちらを狩るか、相談しようとしたとき、相棒の頭から不意に影が差した。メスの匂いを嗅ぎ興奮状態の相棒に指摘しようとした瞬間、相棒の頭がまるで巨大な斧で一撃されたかのように左右に分断された。冗談のように吹き出すどす黒い血の中に黒い影が見えた。新たな食糧を狩るために手に持った剣を振った。まず当たる速度。しかし手応えはなかった。振り切った自らの懐に獰猛に笑う黒い影を見たとき、ゴキッ。と鈍い音。それが自らの首が折れた音だと認識することは出来なかった。
「…グロッ。」
本気で見たくなかったものでも見たように顔をしかめながら茂みから這い出してきたアニエス。
「ユウの狩ったウォーウルフに首がなかった理由が分かった。」
同じように苦笑いしながら這い出てきたノッチに肩を竦めながら返す。
「しょうがないだろ。あれが考えられる限り最速だったんだよ。」
俺がとった作戦は出来るだけ速やかに仲間を呼ぶのを防ぐため、あまり高くない崖の上まで登りそこから落下。それと同時に空中で一回転からの踵落としで先ず一体。そこから着地して回し蹴りでもう一体。
そうして当初の予定通り二体を瞬殺したというのに向けられたのは何故か冷ややかな視線。納得できない。
「もっと…こう……うぷっ。」
首割れゴブリンを見てもう一度えずくアニエス。コイツは自分の外見を理解しているのだろうか。
「さて、ここまで来たら確実にいるよな。」
頬に付いたどす黒い血の一部を親指の腹で拭う。
「…もうここまで来たら最後までやるわよ。」
呆れたように首を竦めながら洞窟の中へと入っていく。
「しかし明るいな。」
洞窟に入った時に光源を持っていなかったのに気づいたのだが、洞窟全体がほんのりと明るい。よくみると洞窟のそこかしこに光るものがある。
「ああ、ヒカルダケだな。」
ノッチの言う通りキノコが光ってる。それはいいのだがそれ自体がやたらデカイ。傘の部分だけでピザ位。軸に至っては大人の上腕ほどの長さになっている。
「これって食えるのか?」
傘から軸の末端にかけて煌々と光り続けるキノコの味が気になった。
「いいや?ちなみに生えてるのをもいだ瞬間、光も無くなるからヒカルダケ。」
試しに本数の多い所から少しもいで見たら灰色の巨大なキノコに変貌した。
「…着いたわ。」
アニエスの声に気を引き締める。岩影に隠れて中を伺おうとするが、何分広い。奥に何やら空洞が見えるが空気の流れから多分行き止まりだろう。
「ユウ。見えるか?」
「ちょっと待ってくれ。」
ノッチに見やすい位置を変わってもらい能力で視力を上げて見てみる。
「…5、いや7体か。」
「本当に見えてんの?」
驚きながら聞いてくるアニエスを軽く無視し、一旦岩影に身を戻して作戦を確認。
「さて…どうする?」
「数も多くないし速攻で行くわ。ユウが切り込んで奥の大きいのを牽制している間に、私達が残りのゴブリンを退治。ゴブリンが片付いたら一気に全部退治。」
「俺が先鋒なんだな…」
げんなりしながら呟いても今いるメンバーではそれが最適だろう。
「じゃあ…行くか!」
ノッチの声と同時に駆け出し、呆気にとられていた一体にダッシュの勢いをそのままのせて全力の突き。ゴブリンは反撃らしい反撃も出来ぬまま屍になった。
ノッチの方に視線を向けると大剣を片手で振り回しつつ、もう一方の手でゴブリンを牽制している。改めてみると物凄い筋力だ。あちらは任せることにして俺は全力で─前へ!
一回間近で戦闘は見ていたけどやっぱり不思議。ノッチの異常な筋力は以前自分の能力が『筋力を無尽蔵にあげられる』という吹っ飛んだものだと教えてくれたから知っている。問題はもう一人。よほどの物好きなのか、馬鹿なのか分からない。武器を持たずに素手に手甲を装備しているだけでゴブリン達に突撃しては次々と倒していく。今、正面の一体を今度は一太刀をかわし、右の回し蹴り。それだけなのに泥人形を崩すが如く簡単に首が飛んでいく。着地した背後からまた一体噛みつきを仕掛けたが、後ろに目でもついているのか素早く移動して噛みつきをかわすと、食い縛る形になったゴブリンの口に裏拳を一発。今度は歯を飛ばし、痛みと驚愕に身を屈めるゴブリンに一気に肉薄し、左手で頭を押さえ込み右手を左手に打ち合わせるように下からの突き上げ。倒れたゴブリンを見て熟れた果実を地面にぶつけたらああなるなぁ。とあながち的外れなことを考えたとき、自分にもゴブリンが一体接近している。一歩間違えたらモンスターと勘違いしそうなグロい闘いをしたアイツが心配そうな表情を向けた。正直この手のモンスターは苦手だ。妙に知性があるからまぁ…そうゆう目で私を見てくる。億劫になりながら腰のメイスを抜いて迎え撃つ。両手を掲げ押し倒そうとでもしているのだろう。その目はもうそのあとに興奮しきっている。
「…馬鹿じゃないの?」
腰に着けた二本のメイスを抜いて両方の柄を合体させて一本の両端にハンマーがついたメイスにする。どうしたって力がつかないのだから、と考えた結果、利用出来ると思ったのが遠心力だ。構えたメイスを軽く体の回りで回してから思いっきり振り上げる。ゴキッと骨を砕く音に紛れてグシャッという湿った音も響いた。前で戦っている男二人が『うひぃ!』と情けない声を上げたが、気にせず、崩れ落ちているゴブリンをメイスの一振りで洞窟の奥に飛ばす。
「…お前、他になかったのかよ、倒し方。」
腰のマウントにメイスを装備したとき
たった今最後の一体を倒した物好きが話しかけてきたが
「ユウ。お前が言えないぞ。その台詞。」
ノッチが代弁してくれたように、左腕を地面と水平に伸ばし、腰を落として指が揃えられていることから抜き手を放ったことは分かるのだが二の腕がすっぽりとゴブリンの胸部に埋まっている。指摘されてから自分の出で立ちに気づいたのか、右手で屍を押さえて捻りながら一気に引き抜いた。抜けた箇所から吹き出た血をかわしきれなかったらしく、少し体に浴びながら遠くに投げ飛ばした。仕切り直すつもりで咳払いでもしようとしたのか右手を口元に持っていき、血にまみれていることに気づいたようだ。慌てて左手に変えようとするもそれはより新鮮な血の匂いを嗅ぐだけだった。
…コイツ、何なんだろう。
自分で嗅いだ匂いがよほどキツかったのかむせている男を見る。ゴブリンなんて騎士でも怯むやつだっているのに平然と倒していくし、そのくせ剣の一本も持ってないし。不思議に感じることが多すぎるので今聞いてみよう。気になることがあったらすぐに解決しないと気持ち悪い。そう思って少し離れたとこにいたソイツに話しかけようとしたとき、不意にソイツがいきなり険しい顔を奥の行き止まりに向けた。
直後洞窟内を全て揺るがす轟音とともにソイツがボールみたいに勢いよく吹き飛ばされ、壁に打ち付けられた。生き残りの攻撃かと思ったが、ゴブリンではなかった。
身長は3mほど。冗談みたいに膨れた腹を短い二本の足で支え、足とは逆に立っているだけで地面に付きそうな長く太い腕。頭は豚の形をしている─オーク。
何で?こんなところに。ゴブリンとともに?有り得ない。あれはゴブリンすら平気で食べる。
「逃げろ!」
思考状態で放心していた私を正気に戻したノッチがオークの豪腕からの一撃を大剣を盾にして防いだが、オークはニヤリと笑うともう一本の腕を横凪ぎに振った。アイツと同じように飛ばされたノッチ。呻いていることから死んではいないが、大ダメージだろう。そんなことを考えながら私は1歩も動けなかった。オークは障害を取り除いて私で楽しむことが漸く出来ると、歪んだ笑いを浮かべている。
─ああ、こんなことならお父様の言うことを守ってあそこで過ごしていたら。
私に抵抗の意思がないと感じたオークがゆっくりと右腕を伸ばして─
「うおらぁぁぁ!」
気合い一発。憤りをのせたであろう一撃が今度はオークを襲った。数m地面を滑り、楽しみを邪魔をした襲撃者を認識したオークが一瞬、固まった。
「何だ…あれ?オークか?何でもアリかよ。」
「…ユウ。」
先程死んだはず。オークの一撃はとても耐えられるものではない。全身を鎧で固めた騎士でも致命傷の一撃だ。なのに、頭から少し血を流しているだけで、その両足はしっかりしている。
「ブルオォォォォォ!!」
新たな敵を排除するためか、それとも楽しみを邪魔され怒っているのか。野太い咆哮をあげるオーク。
「うるさっ!何だよ。ったく。」
「オークだな。」
いつの間にかノッチまでこちらに戻ってきている。コイツら…。
「あー、やっぱりか…さてどうするか。」
「どうするかって。倒すだけだろ。」
「だな。」
流石のオークも警戒しているのかこちらの様子を見ている。
「てかノッチ。大丈夫か?思いっきり飛んでたぞ。」
手甲を引き絞りながらノッチに聞いている。
「ユウほどじゃないさ。」
それは同感だ。
「ユウこそ平気か?頭。」
私は一瞬中身を心配しているのかと思った。だけれどアイツは自分のことを言われたのか分かっていなかったようで、首をかしげ、右手の人差し指をまっすぐ伸ばし、
「?ああ…ちょっと切っただけだろ。」
普通頭から血なんて出たら慣れてない限りパニックになるはずなのに。なのにアイツはオークを指さし
「さて!吹っ飛ばしてくれたお礼に、ぶん殴ってやるよ…豚野郎。」
…なんてことを言った。
ノッチもポカンとしている。私は呆れている。オークも反応に困っているようだ。
「ぶっ。アハハハハハ!」
「…笑うなよ。」
「いや。悪い。…実際そうしそうで面白くなってな。」
そう言いながらアイツの隣に立ち、大剣を構えるノッチ。
アイツはため息をついて、先ず右足を後ろに、腰を落として両腕を開き構えた。
「…本気で殴ったことはまだないからわかんねぇけど……」
そして、先程洞窟の入り口で見せた笑みを浮かべ
「なるべく早くに楽にしてやるよ。」
…今は言わない方が言いかな。
『今のあんた、狼そっくりよ。 ─黒狼さん。』




