ファーストコンタクトの印象はずっと残るもの。
十話にしてやっとヒロインって一体……。
「…あっつぅ。」
疲れが一気にのし掛かってきた。あのあと今までずっと保留にしていたウォーウルフをいい加減売りに行き、想像していたより高額で売れたため、今日は宿に泊まることにし、そこでノッチと分かれ、また翌日ギルドに集合しそこで俺の入団をサポートしてくれるらしい。
つまり今、俺は一人。初日のリベンジを果たすため意気揚々と街に繰り出せる訳無かった。今日の午前無事だったのはあくまでフード付きマントで完全にガードしていたからであって噂が消えた訳ではない。さらに今、俺はファンタジーの町並の中にいるわけで、例えるならド〇クエの街中に一人黒いコートの人物が立っている感じだ。怪しくないわけがない。結局集まった人達から回避するため、能力を使い屋根から屋根に飛んで逃げた。逃げている最中に昼から何も食べていないことに気付き、大衆食堂らしき所に入店。そこでは探索者らしいひとやら、傭兵らしきひとまでいたので目立つことはないと思い、ウルフそばなる食べ物をオーダー。
そして今、俺は二人掛けのテーブルで一人寂しくウルフそばというラーメンみたいな何かを啜っている。なかなかに人の入りも多いから食べている最中に他の人が来たり、なんてことが回りで起きていたのだが俺が座った瞬間、身体中に古傷を作った男は脱兎の如く去っていき、以来誰もいない。
「やっぱり色変えるかな…」
大体何で黒いのか。黒狼だからなのか、広告塔としての宣伝効果なのか。
「主人公みたいで嫌だな…真っ白も嫌だけど。」
せめて食べ終わったら青くしてもらおう。なんてことを思っていると、向かいに座る人影。
「やっぱり考えすぎか…。」
呟き食事を再開しようとしたとき、ピシャッと前から液体が飛んできた。何事かと視線を上げるとどうやら相手方もウルフそばを食べている様。なら仕方ない。一回ピシャッ…いや二回位は飛ぶしな。あれはピシャッ仕方ない。麺類を食すならピシャッ必ず飛ぶピシャッもの…
こうしている間にまぁざっと5回。流石にピシャッ…6回か。
「おい…あんたなぁ……」
そう言って顔を上げてるとそこには意外にも少女がいた。髪は金髪のセミロング。金髪に青みがかかっているという少なくともあちらの世界ではなかった髪色。顔は小さく目は金色のそれをこちらに向けている。顔も小さいし『ああ、美少女ってこんな感じか。』と素直に思える。…口一杯に麺を含んでいなければ。
「ふぁ?ふぁーふぃ?」
一瞬この世界の言葉かと思ったが、単純に口に麺が入っているだけ。 口の中を見せないようにしてるつもりなのだろうが、品の欠片もない。
「いや。何でもない。」
短くそう返してこちらも麺を減らしにかかる。早くしないと伸びてしまう。
「ふぁっふぁ!ふぁひほほひほふぇふぇほひふぇふぉふぇふぁふぁひぃほう!!」
「うるせぇ、飲み込んでから喋れ!!何言ってるか分からん!!」
漸く自分の言語が伝わりにくかったことに気付いたらしく少しうつむき、両手を口に当てリスのようにモゴモゴし出す。
パッと見は可愛らしい動作なのだが100%自分の口から麺がリバースするのを押さえる為だろう。
「ふぅ…何か用?」
どうやらやっと飲み込んだらしく聞き返してきた。
「食いかた汚ねぇな。と。」
「そういう食べ物じゃないの?」
何言ってるか分からないといったふうに首を傾げてくる
「まぁいいわ。要するにあんたにかからなければいいわけね。」
指を突き付けながら自信満々に宣言してくる。
「あんたじゃなくてユウ。お前は?」
「私?んー。」
何故か答えるのを渋る麺女。そのまま店内を見回しはじめ、その視線が扉を捉えたとき新しく客が入ってきた。
兵士とはまた違い頭にこそ何も被ってはいないが、その全身を騎士鎧に包んでいる。前のを兵士と呼ぶなら騎士という呼び方がしっくり来る。どうやら食事しに来た訳ではないらしくキョロキョロと何か探しているようだ。俺を探しに来たのかと思ったがそれならノッチの家にいたときに来るだろう。そう結論づけて、そばの処理に取りかかろうとしたとき、目の前の異変に気付いた。
「…ヤバい。」
そう呟くが早いか、そのまま俺の後ろに隠れようとする麺女。
「ちょっとだけ隠れさせて!見つかったらヤバいから!」
状況を整理しよう。
今麺女は隠れ始めた。
何から?入店してきた騎士から。
そして麺女はどうやら追われているようだ。
結論。
─近くにいると巻き込まれる。
「お前!っ何やってんだ離れろ!」
「何よ!私みたいな美少女が助けを求めてるんだから助けなさい!」
俺のコートを互いに引っ張りながらヒソヒソ声で舌戦。
「大丈夫!あんたがパッと騎士達倒して来たら離れるから!さぁ早く!行けぇ!!」
「行くかバカ!お前が行け!腰に立派なメイスをもってんだからお前が行け!んでそのまま帰ってくんな!!」
「確かに倒せるけど…そしたら追手が増えるでしょうが!」
しつこく食い下がってくる麺女。コートは破けそうにないが普通のコートだったら即破れる位の力で引っ張られている。
「いい加減にしないとマジで能力使うからな!早く離れろ!!」
するとポカンと俺の顔を見ながら固まる。
「能力者…?それにこの格好……」
俺の全身をくまなくチェックしながら呟き、また俺の顔を見て、
「あんたが噂の異世界人?」
「ああ、そうだ。分かったら離せ。」
コクリと頷き手を離す。そしてそのまま俺の背中に手を押し当ててきた。
不審に思って首だけで振り替えるとニッコリ。スマイルを返された。『やっぱりこうすると美少女なんだよな』と思い、固まった俺の背中を…
騎士に向かい、おもいっきり押しながら
「じゃあ適任じゃない!この私、アニエスが許可するわ!あいつら叩き潰して来なさい!!」
あまりに勢いよく押されたので思わず立ち上がってしまったが、すぐにこらえてアニエスというらしい女を睨み付け
「何でそうなるんだ!」
このままでは埒が開かないと感じて振り向いてアニエスを説得。
「何よ!ウォーウルフ素手で狩ったんでしょ!なら簡単よ!サッと行ってあいつらの首ポーンってしてくればいいの!!」
「アホか!仮にもメシ食う場所でそんなこと出来るか!!」
殆ど見た角度によってはキスしてるようにも見えるくらいまで顔を近づけて口論。
「何よ!黒狼さん黒狼さん。どうかお願いします!アイツら倒してきて下さい!!」
「だから俺の名前はユウだって言ってるだろ!第一その黒狼って止めろ!!こっくりさんみたいにリズムつけて言うんじゃねぇ!!」
考えて欲しい。公衆の面前でそんなことしていたらどうなるか。そう。バレる。
─真っ直ぐにこちらに歩いてくる騎士達。
─回りで見つめるギャラリー。
「さぁどうするの?言っとくけど私、捕まったら、白昼堂々アイツに襲われました。って言ってやる。」
─背後に選択肢を1つに絞ってくるアホ。
「…わかったよ。あれ倒してくればいいんだろ?」
渋々そう答えると、
「そうよ。生き残る道はたった1つ。さぁ行け!」
ウォーウルフ、兵士と来て次は騎士か。
国王とか…来ないよな。
まだ書き慣れないなぁ…次こそは頑張ります。




