第二尾 ワケ有りの狐様!
かれこれ二時間、獅子目はずっと狐耳を持った少女にこの世界のことを教えていた。と言っても獅子目が教えてるのではなく主に彼女の質問攻めに一生懸命答えている形となっている。
狐耳の少女はこの世界のルールや人間のことなどたくさんのことを目を輝かせながら訪ね、聞いていた。中には人間の赤ちゃんはどうすればできるのか、という高校生の獅子目にとってなんとも答えにくい質問もあり、そういう関係は言葉を濁して答えるしかなかった。
また、狐耳の少女はさっきの態度とは打って変わって好奇心旺盛で、人間に対する恐怖心もほとんどなくなっていた。それは喜ばしいことだが、いい加減獅子目も彼女のことを知りたい。今の雰囲気なら、こちらから訪ねてもさっきのように怯えることはないだろう。
獅子目は彼女の質問に一通り答えたところで優しく話を切り出した。
「そろそろ君のことも教えてもらいたいんだけどいいかな?」
「う、うん。」
少し強張った表情になったが、嫌がっているようでもなかった。獅子目はまず 根本的なものから聞くことにした。
「君はいったい何者なんだい?その耳といい、尻尾といい、人間ではないようだけど……」
「あ、えっと……私、半妖なの。」
「えっと……半妖ってことは妖怪と人間の子供ってことか?」
「うん。そういうこと。というか、驚かないね。」
「まあ、予想していたことだから。」
一目見た時から彼女は漫画やアニメでよく耳にする妖怪または半妖の類いであることは容易に予想できた。
「妖怪とかそういう類いが本当に存在しているのにはビックリしたけどね。」
「妖怪は基本的に人とは別次元で暮らしているから。」
「別次元?というと?」
「えっと…この世界との平行座標に位置する世界と言いえばいいのかな。要するに裏の世界?」
平行座標とかやたら難しそうな言葉が出てきたがとりあえず獅子目は彼女の話を聞く。
「まあ、こことは別の次元の世界ってこと。基本的にはその世界に妖怪は住んでいるの。」
「それじゃあどうして君はこの世界に?」
「……。」
狐耳の少女は俯いてしまった。
ふと頭に浮かんだ質問を何も考えずに口に出てしまったのがいけなかった、と獅子目は後悔した。
「あ、気分悪くしちゃってごめん。答えたくなかったら答えなくていいよ。」
「いや……大丈夫。」
狐耳の少女は一度深呼吸して顔を上げた。
「私たちみたいな中途半端の存在だとあちらの世界に居場所がないの。あちらの世界にいるのは基本的に純粋妖怪だから。」
「それで君はこの世界に逃げて来たってわけ?というか、こちらとあちらの世界の行き来ってそんな簡単にできるのか?」
「正確には両親とともにこの世界に来たの。あちらの妖怪世界から人間世界に来ることはそれなりの妖力があれば可能だけど、人間世界では使える妖力が制限されてしまうか、帰るのは難しいのよ。」
「なるほど。それで君の両親もここに住んでるの?」
狐耳の少女はまた俯いてしまった。獅子目はまたしても地雷を踏んでしまったようだ。
獅子目は再び弁明を開始する。
「ご、ごめん。また気分悪くさせちゃったね。さっきも言ったけど答えたくなかったら答えなくてもいいからね。」
「ううん。あなたから色々なことを教えてもらったのに私の方は何も教えないって言うのはダメよね。」
(いやー俺も言葉を濁して答えた部分もあったんだけど……。)
狐耳の少女は顔を上げ空を見た。空はすっかりオレンジ色に染まっており、夕暮れの陽射しが階段に座っている二人を照らしている。
日が暮れれば道がわからなくなり帰れなくなるのではないか、という獅子目の不安をよそに狐耳の少女は話始める
「私の両親は……もういないの。この世界にもあちらの世界にも。」
「え!?」
獅子目の不安は一瞬で驚きに変わった。
「かなり前の話。お父さんは寿命で、お母さんはこっちの世界に来る際妖力を使いすぎて……。人間は死んでも形として残るけど妖怪は消滅しちゃうの。」
獅子目の心が揺らいだ。それは同情や慈しみではなく……
「俺と同じだな。」
それは共感だった。
今度は狐耳の少女が驚いて言葉が出ず、口が半開きの状態で獅子目を見た。
「俺の両親も俺が子供の頃事故で亡くなっているんだ。」
「そう……なの?」
獅子目もさっきの彼女のように空を見上げた。
「そうだよ。俺は親戚の家で育てられた。今は自立して一人暮らししているけどね。」
「寂しくないの?」
「寂しくないって言ったら嘘になるけど、俺はそれを乗り越えて生きようってずっと前に誓ったからさ。そういう君は?今までずっと一人だったんでしょ?」
「私は……」
狐耳の少女は茂みに向かって「おいで」と言った。すると、さっき獅子目が近づいた際に四散した狐たちが彼女の元に走ってきた。
「私にはこの子たちがいるからあまり寂しくなかった。」
そう言って彼女は狐の頭を撫でた。狐も気持ち良さそうな表情をする。獅子目もそれを見て微笑ましい気持ちになった。
「そっか。そういえば、今更だけど君は何の半妖なの?狐を連想させるけど……。」
「私は妖孤の半妖。この子たちは私たち妖孤の眷族なの。」
「だからそんなになついているんだね。」
「うん。」
ここで獅子目はあることに気づいた。
「あ、そういえば名前言ってなかったね。」
未だに自己紹介しておらず、お互いの名前もわからないまま今まで話していた。
「俺は獅子目大雅。君の名前も教えてもらっていいかな?」
「私は美夢。美しい夢って書いて美夢。」
「美夢か……。いい名前だね。」
「あなたの名前も格好いいよ。」
いざ自分の名前を誉められるとやはり照れ臭くなってしまう。獅子目は照れ臭さで視線をあらぬ方向へ向けた。
だから。
獅子目は美夢よりも早く見つけることができた。
林の中の人影を。
その人影が持っている光るものを。
こちらに向けられているボウガンの矢を。
獅子目はすぐさま彼女を突き飛ばした。考えている暇などなく、ほぼ反射的に彼女を階段の裏へと突き飛ばした。
そして、事態は動いた。
暇な時スマホで書いている小説です。
【急展開じゃー】