第一尾 古い神社の狐様!
神社には神様がいる。
そんなの迷信だ、という人もいれば当たり前だ、という人もいるかもしれない。
とある高校に通っている獅子目大雅はどちらかというと前者に該当する。
神様は信仰の対象であり実在するものではないというのが現実主義者である彼の持論だ。
だからこそ。
目の前の人物は彼にとって是認できる存在ではなかった。
偶々森の中を散歩して見つけた古い神社。
森に埋もれ誰からも忘れ去られた古い神社。
その神社の賽銭箱に続く階段で多くの白い狐に取り囲まれた巫女姿の美しい少女を見つけた。
その少女は姿こそ普通の人間の少女と変わらない。しかし、彼女の頭には人間にはない狐のような耳が生えおり、ふわふわとした尻尾も生えていた。
彼女が白い狐の首の下を触るたびに白い狐は気持ち良さそうに目を閉じる。その仕草を見て彼女は微笑んだ。
前述の通り現実主義の獅子目にとって彼女は否定しなければならない存在である。
しかし、今、獅子目の頭のなかにあるのは彼女の存在の否定ではなく、興味・好奇心だった。
その好奇心に駆られ覗き見ていた鳥居から体を離し、ゆっくりと近づいていく。
最初に接近に気づいたのは彼女ではなく周りの白い狐達だった。全ての狐が六条の方を向く。それに合わせて彼女の視線も近づいてくる六条へと向かう。
瞬間、彼女は驚いた表情で勢いよく立ち上がった。彼女が立ち上がったのにびっくりしたのか狐達は四方へ散っていった。
「あ、あの…」
獅子目は立ち止まり声をかけた。
「…い、いや!来ないで!」
対して彼女は叫びながら後ろへと下がっていく。
獅子目も再び彼女へと歩み始めた。
「俺は別に怪しいものじゃないよ。ただちょっと通りかかっただけで…」
「だ、だめ。来ないで!」
歩みを止めた。
確かに知らない男にいきなり近づかれては誰だって動揺するだろう。しかし、彼女の反応はまるで初めて自分意外の人間にあったような反応だった。
彼女の体は震えていた。明らかに獅子目に恐怖心を抱いている。
このままではらちがあかないと思った獅子目は、彼女の恐怖心を和らげるために自己紹介から始めることにした。
「俺は獅子目大雅。確かに君にとっては異物の存在かもしれないけど別に君をどうこうしようなんて思ってない。ただ、君に興味を持ったから少し話をしたいなって思っただけなんだ。」
通じたのか彼女の表情は幾分か柔らかくなったような気がした。チャンスだと思い彼女に歩み寄ろうとするが、彼女は後ろへと下がってしまう。まだ完全に彼女の恐怖心を消したわけではないようだ。
「ハア。」
これ以上のアプローチは彼女にとって恐怖でしかないと思い、仕方なくここから離れることにした。
「えっと…ごめんな、脅かしちゃって。あ、君のことは誰にも言わないから。それじゃあ。」
そう言うと獅子目は振り返りもと来た道を歩き始めた。
彼女のことは知りたいが、恐怖心を抱いている彼女に無理矢理近づくのは可哀想だと思った。やはり彼女にはこういう人間が近づかないような場所でひっそりと楽しく生きている方が似合っている。
今の出来事は一時の夢だったのだ。
そう思い、獅子目は振り返らずまっすぐもと来た道を歩く。
そこで。
「……あ、あの!」
「え?」
彼女の方から声を掛けられた。
振り替えると、完全に恐怖心が抜けてるわけではないようだが、彼女の表情はどこか落ち着きを取り戻していた。
「え…と…人間だよ…ね?あ、あなたはどうしてここへ?」
「特に理由はなくって…、ただこの森の中を少し散歩していたらここにたどり着いたんだ…。」
落ち着きを取り戻した同時に彼女の顔に困惑の色が浮かんでいた。
「私のこと…見えるの?」
「え?あ…もちろん。」
見える見えないも、さっきから獅子目の視界には常に彼女の姿が映っている。なので彼女の質問から察すると人間にとって彼女は見えない存在なのであろうか。
「そっか…。見えるんだ。」
「あ、うん………って、うわ!!」
いつの間にか彼女は獅子目の前に立っていた。さっきまでかなり距離があったのにいつの間にか目と鼻の先に。
いきなり目の前のに現れたため、反応的に後ろへと下がる。それを逃がさないという速さで彼女は獅子目の手を掴み、獅子目を見上げる。
彼女の表情は好奇心に満ちてた。
「あ、あの。私にあなた達人間のことをたくさん教えて!!」
この人間ではない少女の一つの願いは現実主義者の獅子目の価値観と運命を変えることとなる。
スマホからの投稿です
【パソコンの方が書きやすいかな(--;)】