その2:患者ハンター=バウンティ
ペン先をメモ帳の上でトントンと叩きながら患者を待っていたクネスは、意外な人物の出現に
ペンを落としてしまった。
「ん、なんでクネスがいるんだ?」
ペンを落とした音に反応したのか、死角にいるはずのクネスをあっさりと見つけてくる。
いつもと同じ迷彩服に身を包んだハンターだ。
「それはこっちのセリフだよ。ハンターが怪我したなんて聞いたことない」
「最近はな……」
意味深な言葉をボソリとつぶやき、ハンターは患者が座る椅子へと座った。
「それで、今日もいつものところ?」
アクサに問われて、口に手をやるハンター。ちらちらとクネスのようすを伺いながらも返答
をしぶる。
クネスは首を傾げるだけだったが、アクサはすべてを察知しているようだった。
「それじゃあ今日は薬だけ出しとくわね。受付でもらって帰って」
「ああ、すまない」
ハンターはすぐさま席を立つと、クネスへと挨拶もそこそこに診察室を出て行ってしまった。
「どうしたんだろ、ハンター。診察に来たんじゃないんですか?」
仏頂面でペンをくるくると回しながら、ハンターが出て行った扉からアクサへと視線を移す。
アクサはカルテになにかを記入しながら、
「人前で診察を受けるのが嫌だったんじゃないの?」
「恥ずかしいってガラじゃないと思うけど」
「そうじゃないんだけど……まあ詳しい事情が知りたかったら直接本人に聞くことね」
「えっ、アクサ先生が教えてくれれば……」
何気にぼやいただけのクネスに、アクサはビシッとゆびを突きつけていた。
「なっ!?」
「いい? 医者って言うのは患者の体だけでなく、心も健康にしないといけないの。患者のプ
ライバシーにかかわることを他言するなんて言語道断!」
勢いよく立ち上がり、コブシを握りつつアクサは熱弁をふるう。
「クネスだって自分が病気になったとき、他人にペラペラと症状なんかを話す医者だったら嫌
でしょ?」
「まあ、確かに……」
「わたしは医者として、すべての患者さんの心身ともに健康にすることを日ごろから心がけて
いるのよ!」
コブシを高らかにかかげて、アクサが宣言する。クネスは何度も頷きながら、アクサに尊敬
の眼差しを送っていた。だが……
「いいこと言ったんだから、ちゃんとメモしておいてね」
メモを指差し高らかに笑うアクサに、ちょっぴり尊敬心が薄れたクネスだった。