act.006
商売のやり方は簡単である。
一つの事さえ覚えておけば良い。
出来る限り安く品物を買い、出来る限りその品物が高く売れる場所に売りつければ良い。
それだけなのだ。
「いらっしゃーい!新しく若いエルフの女が入ったよー!今なら金貨2枚からでどうだいー?」
「よう、兄ちゃん!若い竜人の剣闘士が居るけど護衛役にどうだい?」
「ねぇねぇ、お兄さん、夜のお供に私なんかどう?」
「私が居るから大丈夫だ!!」
ガルルルとアネモネが今にも噛みつかんばかりに、誘ってきたダークエルフの女を威嚇する。
「あらあら、可愛いお嬢さん・・・お嬢さんも一緒でも良いのよ?」
「なっ?!」
そう言われたアネモネの態度は分り易く、ビクッと体を仰け反らせて驚愕の表情を浮かべた。
「ふふふ、可愛いわねぇ~」
「ひっ?!」
ダークエルフの女性が笑みを浮かべながらそっとアネモネの頬を触ろうとするのを制した手があった。
「いや~申し訳ない。遊ぶのはそこら辺までにして置いてくれませんかね?」
「と、灯馬~~~!」
声を聞いて正気を取り戻したのか、灯馬の傍に駆け足でかけより腕にしがみつくアネモネだった。
「あらあら、そんなに逃げなくても良いのに・・・」
「五月蝿い!とっとと去れ!このバカモノが!!」
そう吼えるアネモネを灯馬はなだめつつ、
「そういう事なんで申し訳ないですが・・・」
「残念ね・・・機会があったら寄って頂戴ね?」
「ええ、機会があれば・・・」
灯馬のその言葉を聞き、名も知らないダークエルフの女は満足そうに一つ頷いて去っていた。
「機会なんて作ってやらないからなっ!」
今度は灯馬に吼え始めたアネモネが居たのであった。
「灯馬、もうこの街を出よう!こんな街で店を構える必要なんてないぞ!」
「う~ん・・・そうなんだけどな、でも自分で考える中ではこの街が最高なんだよ」
「しかしだな灯馬、さっきみたいな輩はもちろんだが、この都市の約八割は奴隷商売なのだろう?そんな所で奴隷を扱うつもりがないお前が商売した所でなんの得も無いと思うぞ!」
そう言うアネモネを灯馬は苦笑を浮かべながら聞いていた。
彼らが今居るのは『奴隷都市』と呼ばれた総人口数万人からなる都市だった。
とは言っても、総人口の七割は奴隷の烙印を押された者ばかりなわけだが・・・。
数ヶ月前に一度灯馬達は、この都市に足を踏み入れたが手痛い歓迎を受けたため嫌煙しがちだったが、今回ある確信めいた二つの噂を聞きつけて再びこの都市に来ているのであった。
その内の一つは・・・。
「まぁ今から行く物件は、どうやら新しく競売にかけられるみたいだからまずその様子見からかな?もしかしたら買うかもしれないけど」
「ほぅ~それは楽しみじゃな。場合によっては我もお主の手助けをするぞ?」
「ありがとう。でも不正はダメだよ」
「しかし・・・」
「百聞は一見にしかず。まずは物件を見てから決めようか」
「むぅ・・・」
最近、今一灯馬の力になりきれていないせいか、アネモネが厳しい表情を浮かべる。
灯馬が異世界に来て一年目・・・。
最初の頃は、ほとんど全てが知らない事だらけでアネモネに頼りっきりだったが、なれてきたせいもあって最初の頃と比べてアネモネに頼る事はほとんど無くなっていた。
それでも日々、何とか灯馬の力になりたいと目に見えて解る為にお互いになんとも言えない感情に浸る事が増えて来たのだった。
そんな気まずい空気を払拭するかのように灯馬は見えてきた今回の物件に声を明るくして言った。
「お、どうやら見えて来たみたいだよ?」
「ほぅ~アレか、中々しっかりした家じゃな」
一際目立つ大きな木造で建てられた家だった。
三階からなるそれは普通に見れば裕福な層が住む温かそうな家だった。
「・・・いらっしゃいませ」
家に近づくと突然背後から声をかけられ、灯馬とアネモネはビクッと体を震わせ慌てて背後を振り返った先にはまだ若い人間の女性が立っていた。
着ていた黒い礼服はどこか冷たい印象を抱かせ、そして何よりも一番目についたのは首と腕にそれぞれ付けられた奴隷の証である呪具だった。
「えーっと、貴女は・・・?」
「私は今回、この物件を売り出すにあたって主人に変わり主催を勤めるカナリアと申す者です。競売へ参加する為にこちらへ?」
淡々と語られる言葉は有無を言わせぬ迫力があった。
「はい、一応は・・・ただ、今日来たばっかりなので中を見て構いませんか?」
「ええ、どうぞ。もし宜しければご案内致しましょうか?」
「じゃお願いします」
灯馬はそう言って少し微笑み、アネモネは「こやつ出来るな・・・」と少し警戒心を露わにしていた。
今回はいかがでしたでしょうか?
キャラクターの名前を考えるのは苦手です。
最後の方に出てきた「カナリア」という名前も考えるのに約15分かかりましたYO!!
ご意見、ご感想お待ちしております。