Side.Anemone
我々に与えられた使命はたった一つ。
死んだ人間・・・いや、生物への『命の選択』をさせる事。
それだけだった。
だが、ある日を境に使命が二つに増えた。
『命の選択』をさせ、出来る限り次の『生』を選ばせる事。
理由は単純だった。
昔はあれほど生への渇望があった生物が、最近になってそれを放棄するという事態が増えてきているのだ。
我々にはその理由は解らない。
いや、解らなかったと言った方が正しいだろうか。
生物の思考を読む権限を与えられ、その生物が望む世界へのプランを掲示する。
大体の生物の思考はわかり易い。
自分の経験を元に、次に生まれ変わった時への損得を考えるのがほとんどだ。
個々で損が多い道を歩んできた者は安直に無へ還るケースが多い。
その逆も然り。
たまに現れるのがこれまた厄介なのだが、生前、大罪を働いた生物だ。
多くの生物を殺め、死してなおも反省が無く、あまつさえ我々に襲いかかろうとする生物だ。
その場合は是非もなく無に還している。
こういった輩は、生まれ変わっても同じ事を繰り返す事がほとんどだからだった。
そして、彼は我々の前に現れた。
他の生物と大差ない、安直な考え。
生への執着が無い男だった。
だが、何故かは解らないが我々・・・いや、我は彼に何か惹かれるものがあった。
それが何だかは今の我には理解できないが、彼だけは生の選択を選んで欲しかった。
故に我にとっては初めてとなる最終プランを彼に掲示した。
それに彼は乗ってくれ、我は心の底から嬉しい気持ちに浸れたがその正体は未だに不明。
今はまだ解らなくても良かった。
最終プランの内容の一つに、我々の誰か一人が同行するのが義務付けられる。
彼と一緒に行動すればその不明な部分も自ずと解るだろう。
彼は我に名前を付けてくれた。
『アネモネ』
我々にとって名前とは意味を成さないものと考えられている為、必要性を感じなかったがそれは違うのだと悟った。
名前を呼ばれる度に体の奥に沸く温かい物。
これまた正体不明だが、決して嫌ではない。
むしろ嬉しい感情が沸きあがるのだ。
日々、淡々と同じ事を繰り返す内に失われていた感情が再びこうして芽生えた喜び。
これほどまでの事は過去になかった。
彼と出会えて良かったのか・・・。
彼に与えられた名前と、再び芽生えた感情。
これが良い事だったのか、悪い事だったのかは解らない。
だが今は少しでも彼と肩を並べ歩けたら良いと思う。
―――死が二人を別つまで。
そんな言葉は今の我等には不要だ。
彼が例え死んでも我がいち早く彼の元へ駆け寄り、生の選択をさせるのだから。
もし彼が無へ還る時は・・・。
ここで、前フリとなる話は終りです。
次回からようやく本編に入りますのでヨロシクお願いします。
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