act.003
「異世界?」
「そう、異世界だ」
得意げな顔で語る少女の顔を見て、笑ってしまいそうになったがそこは堪えて質問を続けた。
「それはどういう世界だ?」
異世界という言葉は彼自身知っていた。
だがそれは、あくまでも想像上の世界。
魔法やドラゴンと言った物が普通に出て来る架空の世界。
小説を見て思いを馳せる場所でしかない。
「その考えで間違ってないぞ?」
「・・・え?」
記憶を読まれた?
「すまないが『生の選択』を悩んでいる時から思考を読ませてもらった」
「おいおい、冗談だろ!」
人の思考を読むという行為に驚くよりも先に、怒りが出てしまい思わず立ち上がった。
「す、すまん、悪いとは思ったんだが、我々の立場ではそれも必要となるのだ」
「あん?!」
さらに彼が凄むと、ビクッと肩を震わせ今にも泣きそうな表情になってしまい、彼の怒りも徐々に沈静化してしまった。
「生前の世界に嫌気がさして、生の選択を放棄する者が最近多いのだ・・・故に思考を読み、それに沿って、出来る限りお主達にも最良の選択の掲示をするようになったのだよ」
「・・・そうなのか」
「ぁあ・・・自殺は元より『もう疲れた』と言って無に還る者・・・幾度となく見てきた」
悲しみが少女の顔に浮かび上がり、彼は何も言えなくなってしまった。
「「・・・」」
重苦しい沈黙が二人の間を支配した。
「とりあえず、話を続けてくれ」
沈黙に耐えられなくなり、少女に話を促した。
「あ・・・ぁあ、先ほども言ったとおり別に新たに産まれる場所は別に同じ世界で無くても良いんだよ」
「じゃオレが望めば魔法が支配する世界に行けると?」
「そういう事だ。だが、魔法の世界に行ったからと言って必ずしも魔法が扱えるようになるわけではない」
「それも完全ランダム性って事だな?」
「うむ」
それなりのリスクは伴うが、面白そうな世界なのは間違いない。
だが、それでも・・・。
「人間である為に仕方が無いとは言え、欲深い事だな」
「・・・」
少女が思考を読んでそう言ったにも関らず、彼は何も言わなかった。
「不安か?生前と同じような環境下に置かれる事が・・・」
「そうだ」
間髪入れずに言い切る彼を見て少女はなんと言えない表情を浮かべた。
そして彼にこう告げた。
「なら、最後のプランを掲示しよう」
「最後の?」
「うむ。そしてこれが受け入れられない場合、お主は是非もなく無に還る事となる」
「という事は、まず掲示されないプランと言う事だな?」
「理解が早くて助かるぞ。そうだ、これは実際おぬし達と接触を図る我々の任意で言うか言わないかが決められるプランだ」
「へぇ~面白そうだな」
「だが、受け入れなかった場合のリスクだけではない、受け入れた後もそれ相応のリスクは伴うわけだが覚悟はあるか?」
そう言われて、彼は一瞬の思考にふける。
今回の自分の人生を思い返した。
親しかった友人。
励ましてくれた彼女。
支えてくれた両親。
それが走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
そして、それが過ぎ去った後に彼は目を開き、力強く少女に向けて言った。
「話を聞こう!」
「よろしい、では・・・」
それが最良の選択だったかどうかは解らない。
しかし彼は選択したのだ。
―――最初から『最良の選択』なんて物は世の中には無い。
選択した物を自分の中での最良に導く事が『最良の選択』なのだ。
威厳に溢れた父の最初で最期の教えを少女の話を聞きながら彼は思い返していた。
ご意見、ご感想をお待ちしております。