act.001
新作です。
少しでも楽しんで頂けるなら幸いです。
お金を稼ぐ方法はこの世界では幾らでもある。
だが、それを出来る人と出来ない人が居たりする。
そこの違いはだいたいやる気の有無に出て来るわけで、才能はまた別だと思う。
今回の主人公はどうかというと、やる気が無かった。
楽してお金が稼げる方法なんてそこら辺の道端に転がっているわけでもなく、かと言って誰かの元で働くのはイヤでイヤで仕方なかった。
彼は元々、色々なアルバイトをしていたが一番厄介だったのは、キャバクラのボーイとして6ヶ月働いていた。
しかし上手い具合にいかず、日々、キャストである女の子の機嫌を損なわないよう話をしたり、幹部の人の無駄な話と営業中に飛び交う怒声に耐えながら働いていた。
え?それくらいだったら別に良い?
はは、バカを言っちゃいけない!
幹部の人に日給貰う時、
「あ~今日あんまりやる気無いからお前の給料半分にするな?」
なんて言われた時があるか?
キャストの高飛車な女に、
「あいつ気に食わないから、明日からちょっとの間休みにしてあげたら?」
なんて言われて、自分の意思に沿わない理不尽な休日を貰った時は?
あまつさえキャストの女の子に力自慢したい客に、
「ちょっとお前、ノリで殴られろ(笑)」
って言われていきなり殴られ入院させられた事は?
そんな事をさせられても何で6ヶ月も続けていられたか・・・。
理由は単純だ。
「お金が無かったから・・・」
今だって家賃滞納しているし、光熱費だってもちろん・・・。
もっと上手いやり方が沢山あったかもしれない。
しかし、世の中結局、お金なのだ。
お金が無きゃ警察を呼ぶことも、弁護士を呼ぶことも、実家に帰省するのも全部出来ない。
ましてや生きる事さえも。
なんにしてもあの日までの自分は、まさしく人生の底辺・・・から更に下の底辺を支える人だっただろう・・・。
でも間違いなく自分は生きていた。
一生懸命。
そして変化は突然訪れた。
それは目覚めと同時だった。
「・・・ん?」
知らない白い天上。
知らない白い壁。
知らない白い床。
知らない白い毛布。
知らない真っ白なシーツ。
そして・・・小さな机の上に緋い薔薇が一輪。
「どこだ・・・ここは?」
とりあえず、知らない部屋に自分は居た。
何かの嫌がらせをやられたとその時は思った。
昔、過去に寝ている時に起きたらゴミ捨て場にベッドごと移動されられた時があったからだ。
しかも、キャバクラの幹部の人に・・・。
面白そうだったから!という理由だけで。
どこのガキだよ!!
という言葉をぐっと飲み込み、怒りに震える手を全力で壁にぶつけた時があった。
今回も、同じような事をされたのだと思った。
だからこんな言葉が普通に出た。
「専務~!いい加減にしてください!早くここから出してください~!」
「・・・」
その言葉に誰も反応しなかった。
てっきりどこかに監視カメラが設置されているかと思って辺りを見回してもそれらしき物も無い。
そして部屋から出ようと立ち上がった時、言葉を失った。
「扉が無い・・・」
その部屋の真っ白な壁には扉が無かった。
ご意見、ご感想をお待ちしております。