5話 王の誕生
僕はダンジョンボスのミノタウロスを倒した。
本当に倒したのだろうか?
でも、あの時の――
心臓の鼓動を止めた感触が残っている。
とんでもないことをしてしまった。
そう思った。
でも、そのあと気を失ったはず。
あの場所で意識を失えば、魔物に襲われるはずだ。
なのに僕は生きている。
どうしてだ?
しかも、糸で包帯のように巻かれていた。
体は無残に切り刻まれている。
でも、血だけは止まっていた。
これは僕の能力だ。
でも、体が少し軽い。
回復している?
僕は、そばにあった水辺まで、
這うようにして移動した。
そこで乾いた喉を潤す。
「毒でも何でも……知ったことか」
もう、どうでもよかった。
水を飲んで、ようやく落ち着いた。
でも、自分の姿が水面に映し出されたとき、
自分の姿に凍りついた。
「……これはひどい」
顔の皮膚は剥がれ落ち、
半分は白い骨が見えている。
「とても人間の顔とは思えないな」
こんな姿でも生きているのか。
そんな自分が、
少し滑稽に思えた。
その時。
何者かが土の中から、ゆっくりと姿を現した。
「目を覚まされたのですね」
現れたのは――
女性の姿をした魔物。
ドライアドだった。
「勝手ながら、あなた様を治療させていただきました」
彼女は丁寧に頭を下げていた。
「私の能力は生命の治癒。
ですが……姿までは治すことができません」
魔物が……僕を治療した?
なぜだ?
戸惑う僕に、ドライアドは続けた。
「このダンジョンは私の管理下にあります。
ですが……
ミノタウロスが暴れまわり、我らは困っておりました」
彼女は魔物なのに礼儀正しく、
深く頭を下げている。
「それを、あなた様が倒してくださった。
我らは救われたのです」
僕は、魔物とは思えないほど礼儀正しい魔物に、
思わず話しかけてしまった。
「救われたのは……僕のほうだ」
けれど、彼女はゆっくりと首を振った。
「分かっております。
あなた様が、我らのために戦ったわけではないことも。
それでも――」
彼女は膝をついた。
「王よ。
このまま我らの守り手として、導いてください」
「……王!?」
一瞬言葉の意味が理解できなかった。
「王ってなんですか?」
すると――
地面の穴から、魔物たちがぞろぞろと姿を現した。
芋虫。
土竜。
そしてドライアド。
「ダンジョンボスを倒されたのです」
ドライアドが続ける。
「これからは、あなた様がダンジョンボス。
我らの誉れ高き――『王』なのです」
魔物たちを諭すように彼女が僕を称える。
他の魔物たちも歓声を上げた。
「我らが王!
バンザイ!」
「新たなる王!
バンザイ!」
ドライアドが頭を上げ、話を続ける。
「このダンジョンでは、
最も強き者が王となります。
王よ――
ご指示を」
次の瞬間。
すべての魔物たちが――
一斉にひれ伏した。
この僕に向かって。
その瞬間。
ダンジョンそのものが、
僕を王として迎え入れた気がした。




