4話 覚醒
ミノタウロスは執拗に追ってくる。
もう仲間は極限の状態だった。
そんな時――
盾役の大男の体が、
僕の頭上を越えて舞った。
そして地面に叩きつけられる。
***
「カンカイ!
早く止血だ!」
僕は震える手で魔法を使った。
血は止まった。
けれど――
大男の下半身は、そこに残されたままだった。
何とか大男を剣士が抱え、
上層まで逃げ帰ることができた。
しかし、血管を繋げて命を保っているわけじゃない。
そんな止血の仕方なんて知らない。
大男が、青ざめていく。
みるみる衰弱しているのが分かった。
「おい……」
リーダーの剣士が僕を睨む。
「回復師だろ?
何とかしろよ」
彼の言葉が、僕の心を切り刻んだ。
「僕の能力は……
止血するだけだと……」
「お前しか回復師はいねえんだ!」
大男が血を吐く。
「ぐふっ」
なんとか息はしている。
僕は急いで血を止めた。
でも――
こんな傷、治療したことなんてない。
「血は止まりました。
でも、僕には……」
大男の目から光が消えていく。
「……もういい」
剣士はそう言うと、仲間たちと去っていった。
「待って!」
どうして?
どうして僕だけが、
こんな目に遭うんだ。
いつもだ。
いつも使い捨てにされる。
今回もなのか。
「お前が囮になれ」
いつもなら上層で囮とされた。
それでも血を止めて逃げ延びてきた。
こんな場所じゃない。
ここから逃げるなんて無理だ。
「ダンジョンボスを引き止めろ。
その間に俺たちが助けを呼ぶ」
「え? でも僕は……」
「こいつを回復させないと、死んでしまうだろ?」
「でも……もうその人は……」
そう言った瞬間。
後頭部に衝撃が走った。
目の前が真っ暗になる。
「やっぱり使えねえ奴だな」
ぼんやりとした意識の中で声が聞こえる。
「囮くらいには役立てよ」
***
ひどい激痛で、頭がずきずきする。
目が覚めたときには、誰もいなかった。
早く止血して逃げないと……。
そう思ったときには遅かった。
あのミノタウロスが……
目の前に立っている。
まるで目覚めるのを
待っていたようだった。
奴は僕をすぐに殺さなかった。
蹴とばし。
転がし。
楽しむように遊んでいた。
意識が途切れそうになる。
そのとき、視界にキノコを見つけた。
それは毒キノコ。
激痛で血が噴き出してしまう猛毒。
でも――
血を吐いても止血できる。
僕は迷わなかった。
絶対に生き延びてやる。
生き延びて、奴らに復讐してやる。
意識を保つために、僕は激痛を選んだ。
薄れていく意識の中、キノコを口に詰め込んだ。
そして無理やり飲み込んだ。
その姿を見て、ミノタウロスが笑っている。
だが今度は
僕の体を切り刻み始めた。
そのたびに僕は止血する。
それを見て、奴は喜んでいた。
どれが毒の痛みで
どれが傷の痛みなのか
もう分からない。
やがて
ミノタウロスは遊び飽きたように動きを止めた。
「み、見逃して……くれるのか?」
そう思って、体を引きずりながら逃げようとしたとき――
ミノタウロスが、大斧を振りかざしていた。
「ま、待って!」
僕は、必死の思いで手をかざした。
止血の感覚……
いや
もっとそれよりも強い何か……
僕の体中に電気が走った。
その時、目の前を見ると
巨体がぴたりと止まっていた。
静止している。
苦しそうに、身悶えている。
斧を振りかざした姿のまま。
血の流れを止める感覚。
血のすべてを
僕が止めている。
血が動かなければ、
酸素を供給できない。
「……そっか」
脳が機能しなくなったんだ。
ミノタウロスの目が赤く染まり、
目を見開いている。
「グ……ガッ……」
筋肉が硬直し
巨大な体が痙攣する。
そして――
口から泡を吹き
膝から崩れ落ちる。
ダンジョンボスが一瞬で死んだ。
そして僕も目の前が暗くなっていき、力尽きた。
地面の冷たさを感じながら
そこで眠った。




