3話 最弱の回復師
サンクが廃墟のダンジョンに訪れた日よりも、
はるか昔の話。
五百年前――
この世界では、ダンジョンによって町が栄えていた。
富と名声を求め、多くの冒険者が命を懸けて挑む場所。
そんな剣と魔法が当たり前の世界だ。
今日も夢とロマンを追い、
冒険者たちが力試しのためにダンジョンへ向かう。
***
僕もダンジョンに行きたかった。
でも、ひとりじゃ行けない。
だから、冒険者の集まる場所で必死に声をかけた。
「僕は回復師です。
メンバーを募集していませんか?」
優しそうな人たちを見つけては話しかける。
「回復師は引っ張りだこだろ?
うちに来てくれるか?」
装備は整っていない。
防具も新品で、まだ使い込まれていない。
たぶん始めたばかりのパーティーだと思う。
けれど――
「ちょっと待て」
ひそひそと声が聞こえた。
どうやら僕のことを知っている人がいるらしい。
「お前、回復師と言っても怪我を治せないんだろ?」
「血を止めることはできます。
魔物に噛まれても出血を止められます」
「だからそれじゃあダメなんだよ。
腕を切られたら元に戻せないんだろ?」
多分、無理を言って断る口実にしているんだと思う。
「そんなこと出来る人のほうが少ないです。
でも、僕は出血を止めることならできます」
「それじゃ、使えなーんだよ。
痛みも残るって聞いたぞ。
それなら薬を飲んだ方がマシだな」
こんな感じで、いつも断られる。
冷たくされることには
もう慣れていた。
でも、たまに声をかけてくれる人もいる。
「おい」
別のパーティーが近づいてきた。
装備は整っている。
明らかに経験者だ。
「腕を切られても、出血は止められるんだよな?」
「はい」
すると剣士の男が笑った。
「じゃあさ……」
仲間たちが馬鹿にするように笑いながら言った。
「体を真っ二つに切られても、血は止められるのか?」
「やったことがないから分からないけど……
たぶん、血は止められると思います」
「すごいじゃないか!」
男が肩を叩く。
「ちょうど回復師がいなくて困ってたんだ。
仲間にならないか?」
「僕でいいんですか?」
「ああ。名前は?」
「カンカイです」
こうして僕は、彼らの仲間になった。
***
ダンジョンの攻略は順調だった。
連携の取れた攻撃と防御に、少し安心感を覚える。
「今のところ、僕の出番はないですね」
「そのうち必要になって来るさ」
リーダーの剣士が、そう言って笑った。
「魔物が強くなれば、全滅だってあり得る。
カンカイ。気を引き締めていくぞ」
「はい」
彼等は強く、深層までどんどん進んでいった。
僕は、パーティーの傷を止め、
回復師として最低限の役割を果たした。
「切られてすぐに血が止まる。
なかなか使える回復魔法じゃないか」
「そう言ってもらえると嬉しいです。
使えない回復師だとよく言われましたから……」
「これからは、魔物が強くなる。
頼んだぞ」
「はい」
僕は思った。
このパーティーならやっていける。
そう思った。
でも、現実は甘くなかった――
ダンジョンボスが唸りをあげる。
ミノタウロスだ。
巨大な両斧が仲間を次々と切り飛ばしていく。
僕は必死に止血した。
でも――
治っているわけじゃない。
剣士の腕は切り落とされ、盾を持てなくなった。
吹き飛ばされた仲間も、その場で動けない。
戦況はどんどん悪くなる。
「撤退だ!」
リーダーの剣士が叫んだ。
盾役の大男がしんがりを務める。
鈍い音とともに、盾と斧がぶつかる。
僕たちは急いで後退したけれど、
ミノタウロスは執拗に追ってきていた。
動けなくなった仲間を、他の仲間が抱えて逃げる。
もう攻撃も防御もできなくなった。
そんな、極限の状態で――
盾役の大男の体が、
僕の頭上を越えて舞った。
そして地面に叩きつけられる。
巨大な斧の一撃で
真っ二つになった大男。
「カンカイ!
早く止血だ!」
僕は震える手で魔法を使った。
血は止まった。
けれど――
大男の下半身は、そこに残されたままだった。




