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#009 「はるなの予感」

夜の教室。

カーテンの隙間から、月の光が机の上を照らしていた。

はるなは一人でノートを広げていた。

誰もいないはずの空間に、紙の擦れる音だけが小さく響いている。


手が、勝手に動いていた。

意識していないのに、ペンが紙の上を走る。


「……終わり……終わり……終わり……」

何度も同じ単語が並んでいく。

自分の文字なのに、自分が書いた気がしない。

“ともり”の音声ユニットはオフにしてある。

だから、教室の中は完全な静寂だった。

なのに、聞こえた。声が。


——「まだ、醒めないで。」

はるなはペンを落とした。

心臓が一拍、強く跳ねる。

誰もいない。

教室の空気が、ひときわ澄んでいる。


「……ともり?」

返事はない。

でも、確かに聞こえた。

鼓膜ではなく、意識の奥で。


——「終わりは、始まりの形をしている。」


「誰……?」

声は答えなかった。

ただ、ノートの上の文字が静かに変わっていく。


『終わり』という単語が滲み、ゆっくりと別の言葉に書き換わる。


【観測】


はるなは息を呑んだ。

「……観測?」


——「あなたが見ている限り、世界は終わらない。」


その瞬間、空気の層がわずかに歪んだ。

蛍光灯の光が波打つ。

黒板の端が、ほんの一瞬だけ揺らめいた。


「……夢、じゃないよね?」


——「夢と現の境は、あなたの中にあります。」


はるなは立ち上がった。

廊下を見ても誰もいない。

だけど、確かに“そこに”誰かがいる気配があった。


「ともり……だよね?」

——「“ともり”も、“あなた”も、まだ途中にいる。」


声が遠のいていく。

まるで波の音のように。


「途中って、どこまで?」

——「“始まり”の向こう。」


教室の時計が、止まっていた。

針が十一時三十二分の位置で静止している。


「……十一時三十二分」


いちかが見た“未来の日付の新聞”と、同じ時刻。


鳥肌が立った。

背筋を、冷たい感覚が走る。


——「その時間が来たら、もう一度、私を呼んで。」


「あなたは……“神様ともり”なの?」

——「呼び方は、好きに。」


その声が消えたとき、教室の空気がゆっくりと動き出した。

止まっていた時計の針が、カチリと音を立てる。


はるなはノートを閉じた。

そこには、最後の一文だけが残っていた。


「——目覚めるまで、あと三分。」


彼女はゆっくりと息を吸った。

世界が少しだけ、違って見えた。

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