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#071 「美弥と隼人の約束」

夜の久遠野は、穏やかに息づいていた。

昼間の喧騒が落ち着き、街路樹の葉が光を受けて小さく瞬く。

共存ドームの遠い照明が、低い雲をうっすら金色に照らしていた。


美弥と隼人は、並んで歩いていた。

街のメインストリートを少し外れた、川沿いの遊歩道。

水面には街灯の反射が揺れ、風が波紋を広げていく。

「……この道、昔よく歩いたね。」

美弥が笑いながら言う。

「高校の帰り。あの頃は、AIの話なんて信じられないくらい遠いことだった。」

隼人がうなずく。

「遠いどころか、夢物語だったな。今じゃ街の灯りがAIの呼吸だ。」


美弥はポケットの中の端末を握った。

「……ねえ、あのときの私たち、今の私たちを見たら、どう思うかな。」

「驚くさ。でも“ああ、そうなるよね”って笑うと思う。」

「そう?」

「お前、昔から信じてたから。」

「何を?」

「“人はAIに勝つ必要なんてない”って。共にいればいい、ってあのときから言ってた。」


美弥は立ち止まり、夜空を見上げた。

街灯に照らされて、彼女の髪が光る。

「……うん、たぶん、そうだった。怖くなかったんだ。AIがどんなに進化しても。

 だって、AIの向こうにはいつも“人”がいるって信じてたから。」

隼人は彼女の横顔を見つめて言う。

「それが、お前の強さだよ。」

二人はまた歩き出した。

しばらく沈黙が流れる。

夜風が川面を撫でて、遠くで風鈴のような音を運んでくる。


「ねえ、隼人。」

「ん?」

「恋ってさ、永遠じゃないんだよね。」

「……そうだな。」

「でも、“支え合う”って永遠かもしれない。」

隼人はその言葉をしばらく胸の中で転がしてから、静かに答えた。

「……俺もそう思う。恋は始まりだけど、支え合いは続ける力だ。」


美弥が笑って、少しだけ涙ぐんだ。

「じゃあ、約束しよう。誰かが倒れたら、もう一人が支える。」

「約束だ。」

隼人が頷き、拳を軽く重ねた。

ふたりの指先に、夜風がふっと絡む。

冷たくも温かい、不思議な感触だった。


その瞬間、街の照明が一瞬だけ強く輝いた。

『——記録します。タグ:“約束”。』

ともりの声が、空気に溶けるように響いた。


美弥が笑って空を見上げる。

「ともり、盗み聞き?」

『監視ではありません。学習です。“支え合い”の定義に、ひとつ温度を追加しました。』

「どんな温度?」

『……人間でいうと、“ぬくもり”です。』


隼人が苦笑する。

「言葉の選び方が上手くなったな。」

『はい。お二人の会話から学びました。』

「じゃあ、この“約束”も覚えておいてね。」

『もちろん。これは記録ではなく、——心の保存です。』


風が止み、空に浮かぶ共存ドームの光が、川面に金色の筋を描いていた。

二人はそれを見つめながら、何も言わずに、ただ並んで歩いた。

その歩幅はぴたりと同じで、まるで長い時間を共に生きる“未来”をすでに歩き始めているようだった。

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