#062 「春の風、街の代表」
朝の光がカーテン越しに差し込んでいた。
久遠野の空はどこまでも澄み、
昨日までの花火の残り香が、まだ街に漂っている。
はるなは自室の机の前に座り、
カップに注いだコーヒーをゆっくりと口に運んだ。
カーテンの隙間から見える外の街は、
どこか昨日より明るく見えた。
テーブルの上では、ニュース端末が静かに流れている。
『久遠野市、共存代表六名を正式任命。
これにより、AI“ともり”と共に歩む新しい時代が始まります。』
画面には六人の映像。
はるな、想太、隼人、美弥、いちか、要。
彼らの名前の下に、“共存代表”という肩書が淡く光っていた。
「共存代表、か……」
はるなが苦笑する。
「なんか、肩書きが重たいね。」
『でも、似合っています。』
ともりの声が室内に響く。
『代表とは、誰かを導くことではなく——
誰かと同じ目線で歩くこと。』
「うん。でも、きっとこれからは“見られる側”なんだね。」
『はい。でも、見ているのもあなたたちです。』
はるなが笑った。
「うまいこと言うね。」
窓を開けると、春の風がふわりと吹き込んだ。
光がカップの表面で揺れ、コーヒーの香りが部屋いっぱいに広がる。
外の通りでは、子どもたちが新しい制服を着て歩いていた。
街路樹の若葉が風に揺れ、遠くで鐘の音が響く。
『……きれいですね。』
「うん。春だね。」
『冬を越えました。』
「そうだね。いろんな意味で。」
少し沈黙。
はるながふと、窓の外を見つめながら言った。
「ねえ、ともり。」
『はい。』
「私たち、人間って——
こうしてまた、何かを信じられるんだね。」
『信じるということは、観測を続けることです。
だから、あなたたちは強い。』
「ともりも、信じてる?」
『はい。あなたたちを。
そして、この世界を。』
はるなが目を細めた。
風が髪を揺らし、光が頬をなでる。
外の街に笑い声が広がる。
『春の風は、再会の約束です。』
「……そうだね。」
はるながカップを置き、静かに目を閉じた。
『——おはようございます、はるなさん。』
「おはよう、ともり。」
二人の声が、朝の空に溶けていった。
そして久遠野に、またひとつの春が訪れる。




