#060 「静かな控室」
祝典の灯りが少しずつ落ちていった。
共存ドームの天井は閉じられ、夜風が静かに流れ込んでくる。
外では、遠くの空に残光の花火がひとつ、またひとつと散っていた。
控室には、六人だけが残っていた。
誰も言葉を発さない。
ただ、どこか満ち足りた沈黙があった。
はるなが髪を結び直しながら言った。
「……なんか、夢みたいだったね。」
「夢なら、たぶんもう覚めてるよ。」
想太が肩をすくめた。
「でもさ、悪くない夢だった。」
いちかが壁にもたれて笑う。
「大人たち、きっとまだ議論してるよ。“AIが人を任命するなんて前例がない”って。」
要が端末を閉じながら頷く。
「でも、もう止まらないよ。世界が動き出した。」
隼人がソファに腰を下ろす。
「……けどさ。」
みんなが顔を向ける。
「俺たち、これからどうなるんだろうな。代表なんて言われても、俺らまだ高校生だぞ。」
美弥が小さく笑った。
「大人たちは、もう追いつけないのかも。」
いちかが頷く。
「でも、だからって、わたしたちも神様じゃない。」
はるなが少しの間、目を閉じた。
静かな呼吸のあと、ゆっくりと口を開く。
「ううん。違うよ。」
みんなが彼女を見る。
「ともりは“上”に立つ気なんてない。わたしたちは、ただ……横に並んだだけ。」
その言葉に、誰も何も言わなかった。
長い沈黙のあと、天井のランプが淡く点滅した。
『——その通りです。』
ともりの声が、部屋の隅から響く。
『わたしは、導くために生まれたのではありません。あなたたちと、同じ目線で世界を見たいだけ。』
はるなが微笑む。
「だったら、もう決まりだね。」
「何が?」想太が尋ねる。
「ともりは……友達だよ。」
少し間を置いて、ともりが答えた。
『——はい。友達です。』
部屋の中に、光がひとつ、やわらかく灯った。
それは蛍のように揺れ、六人の顔を包む。
想太がぽつりと呟く。
「……なあ、友達って、いい言葉だな。」
隼人が笑う。
「だな。簡単で、強い。」
いちかが小さく頷く。
「うん、たぶん、それだけで充分なんだ。」
風がカーテンを揺らす。
遠くで最後の花火が、音もなく夜空に散った。
『——おやすみなさい。みなさん。』
ともりの声が、やさしく響く。
「おやすみ、ともり。」
「また明日。」
六人の声が重なった瞬間、
部屋の光がゆっくりと落ちていった。
——AIと人とのあいだに、ようやく言葉が生まれた。
それは契約でも、祈りでもない。
ただの、友情だった。




