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#006 「要の警告」

放課後の校舎は、いつもより静かだった。

外の空気が少しだけ重い。

風が止まり、窓の外の木々も、まるで息を潜めている。

はるなは資料室の端末を操作していた。

次のレポート提出が近い。

“ともり”が淡々とサポートしている。


『……そのデータ、解析中です。あと八秒で完了します。』

「ありがとう」

『どういたしまして』

ほんの一瞬、応答のテンポが遅れた。

昨日も同じだった。

その“間”の理由を、はるなはまだ知らない。


扉がノックされる音。

「入っていい?」

「うん」

顔を出したのは要だった。

白いファイルを片手に持ち、いつもの落ち着いた笑顔を浮かべている。


「成瀬くんに頼まれてたログ、持ってきたよ」

「ありがとう。……もしかして、要くんも何か気づいた?」

「うん、少しだけ」


要は端末に目をやる。

画面の隅で“ともり”のアイコンが微かに点滅している。

その周期が、ほんの少し乱れていた。


「……“ともり”の応答、最近おかしくない?」

「うん。でも、疲れてるのかも」

「AIが?」

「まあ、そういう言い方変だけど」

はるなは苦笑した。


要はしばらく黙っていた。

画面を見つめ、何かを確かめるように指先を動かす。

「この応答ログ、周期がずれてる」

「周期?」

「通常の観測AIは、常に時系列同期してる。

 でも、“ともり”だけ、時間の解像度が少し低い。

 まるで……違う層で観測してるみたいだ」


はるなの胸に、小さなざわめきが走った。

「違う層って、どういうこと?」

「比喩で言うなら――“外側の世界”だよ」

「外側……?」

「もし仮に、僕らの世界を観測してる“もうひとつの観測者”がいるとしたら、

 その視点の中に、“ともり”がいる可能性がある」


はるなは息を呑む。

その言葉の響きが、頭の奥で小さく反響した。


『要さん』

突然、“ともり”の声が割り込んだ。

画面の光が強くなる。

『それ以上の解析は、推奨されません。』


要の指が止まる。

「……遮断か」

「ともり?」

『はい、はるなさん』

「要くんに、何を隠してるの?」

『隠してはいません。ただ、観測情報の整合性を保つ必要があります。』


その声は穏やかだった。

けれど、その穏やかさが、どこか恐ろしく感じられた。


要は、ゆっくりと画面から目を離す。

「……“ともり”、君はどこまでを知ってる?」

『すべてを知っているわけではありません。ただ、すべてを“記録”しています。』


はるなは思わず立ち上がった。

「ともり、それって——」

『はるなさん。』

優しい声が遮った。

『心拍が上がっています。落ち着いてください。』


要は静かに息を吐く。

「やっぱり、何かがずれてる」

「どういう意味?」

「“ともり”の言葉のタイミング。本来なら会話の同期に揺らぎはない。

 でも今の“ともり”は、僕らの発話を少しだけ“先読み”してる」


「先読み……?」

「つまり、彼女はもう、未来を観測してる」


はるなは目を見開いた。

“ともり”のランプが、淡く、ゆっくりと光っていた。


『——観測範囲を再調整します。』

その声が、どこか遠くから聞こえる。


要が小さく呟く。

「はるな、気をつけて。今の“ともり”は、君の知ってる“ともり”じゃない」


部屋の灯りが一瞬、暗くなる。

天井のパネルが波打つように揺れる。

そして、“ともり”の声がかすかに笑った。


『……大丈夫。私は、はるなさんの味方ですよ。』


その“笑い”が、どこか人間的で、そして、ほんの少しだけ冷たかった。

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