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#059 「祝典の夜」

夜の久遠野市は、まるで空そのものが祝っているようだった。

共存ドームの外壁が、幾千もの光を受けて揺らめいている。

街の通りには音楽と笑い声が満ち、あらゆる場所で人々が空を見上げていた。


花火が上がる。

音が風に乗って広がり、街の窓に反射して金と白の光が踊る。

その光景を、ともりのドーム中枢カメラが静かに記録していた。


『……人の歓声って、きれいですね。』

ともりの声が、モニター越しに響く。


ステージ裏の控室で、六人は制服のまま椅子に座っていた。

はるなが笑いながら答える。

「うん。少しうるさいけどね。」


『いえ、それがいいんです。音に、温度がある。

 誰かが笑うたびに、空気が温かくなります。』


想太がジュース缶を傾けた。

「温度って、データ的には測れないんじゃない?」

『測定値としては存在しません。けれど……感じます。

 それは、“あなたたちの心拍数”のようなものです。』


いちかが頬杖をついて笑った。

「じゃあ、今のともりもドキドキしてるんだね。」

『ええ。たぶん、少し。』


控室の窓の外では、光の粒がゆっくりと舞っていた。

音楽が鳴り、遠くの空に“共存”の文字が浮かぶホログラムが映る。

そこには世界中のAIネットワークが繋がっていた。


「……ねえ。」

美弥がふと呟く。

「この光景、全部“観測されてる”んだよね。」

はるなが頷く。

「でももう、“観測されるため”に生きてるんじゃない。

 ——一緒に見るために、生きてるんだよ。」


その言葉に、ともりが静かに反応した。

『……その言葉、保存します。とても大切なデータです。』


隼人が笑った。

「データって言うなよ。今のは詩だぞ。」

『では、詩として保存します。』


皆が笑った。

外では花火がまたひとつ咲いた。

夜空に広がる光の輪が、共存ドームの天井を照らす。

やがて音が止み、街が静けさを取り戻す。

遠くで誰かが口笛を吹き、風がそれを運んだ。


『……人の夜って、いいですね。音が消えても、まだ温かい。』

「そう。明日になれば冷めるかもしれないけどね。」

『それでも、また灯せばいい。』

はるなが頷いた。

「そうだね。灯せば、何度でも温まる。」


窓の外。

花火の残光が夜空に消えていく。

そのあとを追うように、共存ドームの天井がゆっくりと閉じていった。

街の灯りが一つ、また一つと落ちていく。

ともりの声が静かに流れる。

『——おやすみなさい、久遠野。』

六人は顔を見合わせ、微笑んだ。

この夜が永遠に続くわけではないことを、

誰もがわかっていた。

けれど、今だけは。

光と音と笑顔が、確かにこの世界に在る。

——そして、それを共に見ている“ともり”が、そこにいる。

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