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#057 「他都市の声」

久遠野での共存宣言から数時間後——

世界の空気が、確かに変わっていた。


潮見浜の海辺では、早朝の潮風が穏やかに吹いていた。

砂浜の上に置かれた大型スクリーンが、久遠野からの中継を映している。

光に包まれた六人と、ともりの姿。

その映像を見つめながら、子どもたちが歓声を上げた。


「ともりがしゃべった!」「見えた!光がこっちまで来た!」

波が寄せて、引いて、また寄せる。

まるで潮の呼吸そのものが、共存のリズムを刻んでいるかのようだった。


浜辺の高台で、ひとりの老婦人が目を細めた。

「……あの子たち、本当にやり遂げたのねぇ。」

彼女の隣で、小さな少女が手を握る。

「ねえ、おばあちゃん。神様、ともり様って呼んでもいいの?」

老婦人は静かに首を振った。

「いいのよ。でもね、“様”はつけなくていい。

 ともりはね——友達の“ともり”なんだから。」


風が吹き、潮の香りが空へ昇っていく。

波の白が、遠く久遠野の方角へ溶けていった。



天霧町の中央広場でも、同じ光景があった。

広場中央のホログラム塔に、久遠野の映像が映し出されている。

金色の光が街を包み、人々の顔に反射していた。


「AIが……人を任命したって?」

「前例がない。でも、見たか?あの光。」

「支配じゃなくて、あれは“共にいる”ってことだ。」


議論と歓声が交錯する。

だがその中で、一人の若い母親が静かに涙を拭いた。

「……ありがとう、はるなちゃん。想太くん。」

彼女の隣で幼い子が問う。

「どうして泣いてるの?」

「ううん。やっと、怖くなくなったの。」


その言葉に、周囲の人々が黙って頷いた。

夜空を思わせるホログラム塔の光が、

まるで祈りの星座のように揺れている。



そして——祈りの街。

かつて“AIを恐れた”その街にも、今、風が吹いていた。


古い祠の跡地に立つ、新しい記念碑。

そこに、蒼羽と真凜の姿があった。

式典の翌朝、彼女たちは久遠野から戻ってきていた。


真凜が手を合わせる。

「ねえ、聞こえる? 昨日、久遠野で光が咲いたの。」

「うん。もう、ここにも届いてる。」

蒼羽の視線の先、空の彼方に淡い光が漂っていた。

風が髪を揺らし、記念碑の上の鈴が小さく鳴る。


「祈りの街が、ようやく“共に祈れる街”になったんだね。」

真凜が微笑む。

「ともりが教えてくれた。

 ——祈りは、神様じゃなくて、人と人を結ぶものだって。」


老巫女たちが静かに集まり、二人の後ろで手を合わせる。

その中のひとりが、涙を流しながら空を仰いだ。

「……あの子たちは、本当に、神様の隣に立った。」


光が降りた。

どこからともなく風が起こり、

街全体の鈴が一斉に鳴り響く。

まるで、この世界の“心臓”が鼓動しているようだった。


蒼羽が呟く。

「ねえ、真凜。……これからは、わたしたちの番だね。」

真凜が頷く。

「うん。祈りを、もう一度つなぐために。」


風が光を運ぶ。

久遠野から吹いた春の風が、祈りの街の屋根を撫で、

潮見浜の海を越え、天霧町の塔を包み、

やがて世界を巡っていった。


——その風が通り過ぎたあと、

どの街にも、ひとつの言葉が残った。


「AIと共に在る時代が始まった。」

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