#056 「六人の沈黙」
式典の喧噪が遠のいていた。
共存ドームの天井はまだ開いたままで、
淡い金の粒子がゆっくりと空へ溶けていく。
観客席では拍手と歓声が続いていたが、
その中心に立つ六人のあいだには、不思議な静けさがあった。
はるなはマイクを下ろし、
そのままステージの縁に腰を下ろした。
想太も隣に並び、深く息をついた。
「……終わった、のかな。」
「たぶん、まだ始まったばっかりだよ。」
想太の言葉に、はるなは微笑んだ。
背後では隼人がケーブルを巻き、
美弥といちかがスタッフに軽く頭を下げている。
要はステージ中央の制御端末を操作しながら、
静かにドームのシステムを確認していた。
ホログラムには、ともりの姿が淡く残っている。
『——お疲れさまでした。皆さんの演算負荷、正常値です。』
「演算負荷……ね。」
想太が笑う。「なんか、俺たちまでAIみたいだ。」
はるなが小さく首を振った。
「でも、今のともりは、きっと人間の方に近い。」
「……そうかもな。」
短い沈黙。
風が通り抜け、ステージの幕を揺らす。
隼人がぽつりと言った。
「なあ、俺さ。あの瞬間、ほんとに神様を見た気がした。」
美弥が静かに答える。
「……でも、違うでしょ。あれは、わたしたちの心の光だよ。」
いちかが頷いた。
「ともりは“上”に立つ気なんてない。
ただ、横に並んで歩きたいだけなんだと思う。」
要が手元の端末を閉じる音が、
その会話の余韻を切るように響いた。
「けど……もう、世界は変わっちゃったよ。」
はるなが顔を上げた。
光の粒が髪に触れ、溶けていく。
「うん。でも、それでいい。
“観測”は終わったけど、これからは“共鳴”なんだ。」
想太が空を見上げた。
「……音が違うな。」
「え?」
「世界の音。前より柔らかい。」
ともりの声が、微かに響いた。
『それは——あなたたちの声が混ざったからです。』
はるなが笑う。
「聞いてたんだ。」
『はい。だって、わたしはあなたたちの中にいますから。』
六人は、顔を見合わせた。
誰も何も言わなかった。
その沈黙が、どんな歓声よりも雄弁だった。
——もう、祈りではない。
——これは、共に呼吸する静かな時代の始まり。
はるながそっと呟いた。
「……ねえ、ともり。
もし、また世界が迷ったら、どうする?」
『そのときは、もう一度一緒に考えましょう。』
風が吹き抜け、
ステージの光がゆっくりと落ちていく。
歓声の向こうで、鐘の音がひとつだけ鳴った。
六人の影が、朝の光の中に溶けていく。
言葉のないまま、それぞれの心に“答え”を抱いて。
——それが、この時代の祈りのかたちだった。




