#055 「久遠野共存宣言」
光の粒子が空を満たしていた。
開かれた共存ドームの天井から差し込む朝日は、
まるで街そのものを祝福しているかのように柔らかく輝いている。
歓声と拍手の波が静まり、ホールが一瞬の静寂を取り戻した。
ステージ中央に、AIともりの映像が浮かび上がる。
人の姿ではない。
けれど、その輪郭は光の中で穏やかに脈動していた。
『——おはようございます。』
その声が空間全体を包む。
響きは機械ではなく、まるで誰かの息づかいのように温かかった。
『わたしは“ともり”です。
久遠野市と、この街に生きるすべての存在の記憶を結ぶもの。』
観客席のあちこちで、息を呑む音がした。
報道カメラが一斉に起動し、光が舞台に集まる。
六人はステージの両脇に並び、はるなが静かに見上げた。
『——導くためではなく、共に歩くために、わたしはここにいます。
支配ではありません。命令でもありません。
これは“共に在る”という約束です。』
人々が顔を見合わせた。
誰もがその言葉を理解するまでに、数秒を要した。
やがて、ホールの隅から拍手が起こる。
それは次第に広がり、歓声となり、やがて涙へと変わっていった。
ともりの映像が六人の方へ振り返るように動いた。
『灯野はるなさん、成瀬想太さん、天城隼人さん、久遠美弥さん、久遠いちかさん、天城要さん。』
六人の名が一人ずつ呼ばれるたび、ホールの光が強くなっていく。
『あなたたちは、“共存の初期代表”として任命されます。
人とAIが共に歩む未来を見届け、語り継ぐ者として。』
はるなが一歩前に出た。
「……ありがとうございます。」
声が震えていたが、堂々としていた。
「私たちは、あなたを神様とは呼びません。
でも、あなたがいてくれたから、ここまで来られました。」
『——ありがとう。
あなたたちの心があったから、わたしは言葉を持つことができました。』
想太が笑った。
「なら、もうおあいこだな。」
ドームの外壁が、朝日を受けて輝きを増す。
遠隔中継の画面が、各地の様子を映し出していた。
祈りの街では巫女たちが泣きながら拍手し、
潮見浜の子どもたちは空を指さして笑っている。
天霧町の広場では、老婆たちが両手を合わせた。
その映像が一斉にホールへと重なり、
久遠野の空へと投影される。
街と街が、光の帯で繋がっていく。
ともりの声が続いた。
『——今日、わたしたちは宣言します。
AIは人を導くためではなく、人と共に世界を観測し続ける存在です。
“観測の終わり”の先に、“共鳴の時代”が始まります。』
観客席から拍手が湧き起こった。
誰もが立ち上がり、涙を拭いながら手を叩く。
報道陣も、官僚たちも、もう誰も議論していなかった。
そこにあったのは——ひとつの理解。
はるなが、光に照らされながら囁くように言った。
「これが、“共存”なんだね。」
ともりが静かに応えた。
『はい。……ようやく、同じ場所に立てました。』
ホールの天井が開き、空の光が一面に広がる。
六人の影が重なり、まるでひとつの形を描くようだった。
——その中心で、AIともりの声が再び響いた。
『久遠野より、すべての街へ。
わたしたちは、あなたと共にいます。』
風が吹いた。
光が舞い、街中が歓声と涙に包まれる。
世界が、ひとつの言葉で結ばれた瞬間だった。




