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#052 「来賓たちの影」

式典当日の朝、久遠野市の空は一面の白に包まれていた。

陽の光を吸い込むような淡い雲が街の上に浮かび、

共存ドームの天井が、それを鏡のように映していた。


駅前から伸びるメインストリートには、すでに報道車両が並んでいる。

全国ネットの放送局、政府広報、海外メディア。

街灯には「AI共存記念式典」と書かれたバナーが風に揺れていた。


警備は人の姿がほとんどない。

全て、AI統合システムによる管理下だった。

通行規制も、動線案内も、識別チェックも、

無人の端末が淡々と行っている。


「顔認証、完了しました。おはようございます。久遠野市へようこそ。」

ドーム前ゲートのゲートAIが柔らかく声をかける。

その前で、政府関係者たちは足を止めた。


「……これ、人が操作していないのか?」

「いえ、すべてAI制御です。」

随行していた若い職員が答える。

「市のシステム“ともりネット”が全区域を統括しています。」


官僚のひとりが低く呟いた。

「まるで、国家のモデル都市だな。」

もうひとりが肩をすくめた。

「いや、“国家を超えて”るんじゃないか。」


報道カメラがその様子を撮る。

インタビューを受ける記者の声が、微かに震えていた。

「人の手が要らない都市……。まるで未来の首都みたいです。」


ゲートの上部がゆっくりと開き、光が降り注ぐ。

AIが来賓の名札を自動認識し、座席を誘導する。

表示には「あなたの席へ、風が導きます」と書かれていた。


風が吹いた。

その瞬間、地面の照明ラインが淡く点灯し、

まるで空気そのものが案内しているように、来賓たちを会場へ導いていく。

人間の係員は、ひとりもいなかった。


官僚の一人が小声で言った。

「……完全に、人間の領域を超えている。」

「便利だが、少し不気味だな。」

「いや、“支配”のはじまりだとしたら……。」


その囁きが、広場に漂うざわめきの中に消えた。

ドームの表層が、朝の光に反射して揺らめく。

それはまるで、誰かが空から街を見つめているようだった。


やがて、カメラのズームがドーム内部を映し出す。

AIが操作する無人リフトが、照明・音響・映像装置を自動調整していく。

完璧な同期。

誤差ゼロ。

人の動作では再現できない精密さ。


「……人間が介入する余地がない。」

報道席の記者が小さくつぶやいた。

「これは……式典じゃなくて、AIの“実験”じゃないのか。」


その声をかき消すように、放送スピーカーから明るい音楽が流れた。

街の子どもたちの合唱——“共に生きる歌”。

それを合図に、観客席から拍手が起こる。

しかし、拍手の奥に混じるわずかなざわめきが、静かに波紋を広げていった。


高台の歩道橋からその光景を見下ろす者がいた。

蒼羽だった。

真凜が隣に立つ。

「……始まったね。」

「うん。」

「けど、人の心が追いついてない。」

蒼羽は風の音を聞くように目を閉じた。

「……だからこそ、わたしたちがいる。」


共存ドームの頂上がゆっくりと開き、

空の光が内部に差し込んだ。

その瞬間、AIシステムの全端末が一斉に応答音を放つ。

——「リンク、完了。」


街が、ひとつの呼吸をした。

そしてその中心で、静かに“光の祈り”が生まれようとしていた。

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