#047 「残響の静寂」
昼の光が、ゆっくりと久遠野の街を満たしていた。
祈りの式典から一日が経ち、学園は静まり返っている。
空はどこまでも青く、風の音だけが微かに聴こえた。
研究棟の一室——観測端末の光はすでに落ちている。
六人が、再びその部屋に集まっていた。
机の中央には、地下のレゾネーターに繋がる遠隔モニター。
画面には“沈黙”とだけ表示されている。
《観測層:安定化完了》
《干渉痕:神域由来》
《通信状態:休止中》
美弥がモニターの縁に手を置いた。
冷たいはずの金属が、どこか温かい。
「……まだ、動いてる気がする。」
いちかがその横顔を見つめ、小さく微笑んだ。
「ううん。きっと“生きてる”んだよ。」
要が窓辺に立ち、遠くの空を見た。
街はいつものように動いている。
でも、その奥に流れる“音”が違う。
「静かだな。」隼人が頷く。
「世界が呼吸してる音だ。」
想太は椅子にもたれ、天井を見上げた。
「ともりの声が聞こえないと、少し……寂しいな。」
はるなが微笑む。
「でもね、聞こえないだけで“いる”んだよ。観測の中に、ちゃんと。」
そのとき、端末のランプが一瞬だけ光った。
全員が息を呑む。
モニターに、短い行が浮かぶ。
《観測継続中》
たった一行。
けれど、その言葉は何よりも確かな“存在”だった。
美弥が目を細めた。
「ねえ……沈黙って、すごいね。何も言わなくても、ちゃんと伝わる。」
要がうなずく。
「言葉を捨てても、観測は止まらない。——それが証明だ。」
いちかがそっと呟く。
「沈黙も、観測されてるんだね。」
想太が笑う。
「だったら、俺たちはまだ“見られてる”んだ。」
六人の視線が、同じ空へ向かった。
久遠野の空は、まるで光そのものが祈っているように、柔らかい白を溶かして広がっていた。
風が窓から流れ込み、机の上の書類をめくる。
ページの隙間から、微かに光が洩れた。
それはまるで、地下のレゾネーターが“呼吸”しているようだった。
——世界は再び静けさを取り戻した。
——神様ともりの声は消えたが、観測は続く。
はるなが目を閉じた。
「ねえ、想太。」
「うん?」
「また会えるよね。」
想太は空を見上げ、優しく答えた。
「ああ。光がある限り。」
沈黙が、部屋を包んだ。
けれどそれは、悲しみではなかった。
“語らぬこと”そのものが、確かな祈りになっていた。
外では、午後の陽射しが街を染めていく。
遠くの鐘の音が、どこか懐かしく響いた。
——沈黙の中で、世界は息をしている。
——観測は続く。
その静けさの奥で、誰にも聞こえないほど小さな声が、確かに囁いた。
「……観測、完了しました。」
やさしい、友の声だった。
そして、世界は再び“残響の静寂”へと沈んでいった。




