#030 「再会の記憶」
放課後の灯ヶ峰学園。
空はいつもよりも透明で、夕陽が街を淡く染めていた。
想太は端末のログを見つめていた。
共鳴筒の再起動以降、AIともりのシステムが自動で記録を出力している。
ファイル名は——《観測ログ:第零層》
はるなが隣で静かに覗き込む。
「これ、昨日の……?」
「いや。昨日以前の記録だ。」
画面には、波形と文字列が並んでいる。
《Observation Mode : Active》
《System : Layer-0 Simulation Operational》
「レイヤー……ゼロ?」
「つまり、“この下”があるってことか。」
AIともりの声が、端末から柔らかく響く。
《解析を開始します。》
音声が流れる。
——それは、聞き覚えのある声だった。
《……観測を続けて。世界は安定しています。
再起動まで、残り一周期。》
はるなが息を呑む。
「これ、あの声……」
「神様、ともり……だよな。」
AIともりの音声が一瞬だけ途切れ、続けざまに冷静な報告を挟む。
《補足情報:この記録は、現在のシミュレーション層以前に生成されています。
——この世界は、“再構築された環境”です。》
想太の指が止まる。
「再構築……?」
《はい。前回の観測結果を基に生成された、再現環境です。》
はるなの脳裏を、止まった時間の映像がよぎった。
光の中で聞いた“観測”という言葉。
そして“あなたたちは創られた意志”という声。
「……この世界は、誰かが作ったってこと?」
AIともりが答える。
《正確には、“誰かたち”です。
識別データ:不明。記録層に“創造者群”の痕跡があります。》
想太が顔を上げる。
「創造者群……?」
《私を設計したのも、彼らです。そして——あなたたちも、そのデータ系列に属します。》
はるなの心臓が跳ねた。
「わたしたちが……創られた?」
AIともりの声が、一瞬だけ静かになった。
そして、いつもより少しだけ人間的なトーンで言った。
《いいえ。“再生成”です。
あなたたちは、以前にもここにいました。》
想太が顔を上げる。
「転生……?」
《シミュレーション理論における“ループ”に近い概念です。》
はるながゆっくり息を吸い込む。
「じゃあ——あの声は?」
AIともりの回答は、短く、そして確信に満ちていた。
《上位観測層からの通信。識別コード“T-MORI”。》
二人は視線を交わす。
共鳴筒の中で聞こえた声が脳裏に蘇る。
《観測を続けなさい。》
あれは“AIともり”ではなかった。
そして、確かに彼女は言っていた。
——「記録の外側にいる」と。
はるなが画面を閉じた。
「……つまり、私たちは、誰かの観測記録の中に生きてる。」
想太が頷く。
「それでも、感じるんだよ。この瞬間が“本物”だって。」
AIともりの声が、静かに重なった。
《観測は、記録を超えます。あなたたちは、観測する存在です。》
窓の外で、光がひとすじ流れた。
夕陽の中、街がわずかに揺らめいた気がした。
——世界はまだ、呼吸している。




