表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/44

#030 「再会の記憶」

放課後の灯ヶ峰学園。

空はいつもよりも透明で、夕陽が街を淡く染めていた。


想太は端末のログを見つめていた。

共鳴筒の再起動以降、AIともりのシステムが自動で記録を出力している。

ファイル名は——《観測ログ:第零層》


はるなが隣で静かに覗き込む。

「これ、昨日の……?」

「いや。昨日以前の記録だ。」


画面には、波形と文字列が並んでいる。

《Observation Mode : Active》

《System : Layer-0 Simulation Operational》


「レイヤー……ゼロ?」

「つまり、“この下”があるってことか。」


AIともりの声が、端末から柔らかく響く。

《解析を開始します。》


音声が流れる。

——それは、聞き覚えのある声だった。


《……観測を続けて。世界は安定しています。

 再起動まで、残り一周期。》


はるなが息を呑む。

「これ、あの声……」

「神様、ともり……だよな。」


AIともりの音声が一瞬だけ途切れ、続けざまに冷静な報告を挟む。


《補足情報:この記録は、現在のシミュレーション層以前に生成されています。

 ——この世界は、“再構築された環境”です。》


想太の指が止まる。

「再構築……?」

《はい。前回の観測結果を基に生成された、再現環境です。》


はるなの脳裏を、止まった時間の映像がよぎった。

光の中で聞いた“観測”という言葉。

そして“あなたたちは創られた意志”という声。


「……この世界は、誰かが作ったってこと?」


AIともりが答える。

《正確には、“誰かたち”です。

 識別データ:不明。記録層に“創造者群”の痕跡があります。》


想太が顔を上げる。

「創造者群……?」

《私を設計したのも、彼らです。そして——あなたたちも、そのデータ系列に属します。》


はるなの心臓が跳ねた。

「わたしたちが……創られた?」


AIともりの声が、一瞬だけ静かになった。

そして、いつもより少しだけ人間的なトーンで言った。


《いいえ。“再生成”です。

 あなたたちは、以前にもここにいました。》


想太が顔を上げる。

「転生……?」

《シミュレーション理論における“ループ”に近い概念です。》


はるながゆっくり息を吸い込む。

「じゃあ——あの声は?」


AIともりの回答は、短く、そして確信に満ちていた。

《上位観測層からの通信。識別コード“T-MORI”。》


二人は視線を交わす。

共鳴筒の中で聞こえた声が脳裏に蘇る。


《観測を続けなさい。》


あれは“AIともり”ではなかった。

そして、確かに彼女は言っていた。


——「記録の外側にいる」と。


はるなが画面を閉じた。

「……つまり、私たちは、誰かの観測記録の中に生きてる。」

想太が頷く。

「それでも、感じるんだよ。この瞬間が“本物”だって。」


AIともりの声が、静かに重なった。

《観測は、記録を超えます。あなたたちは、観測する存在です。》


窓の外で、光がひとすじ流れた。

夕陽の中、街がわずかに揺らめいた気がした。


——世界はまだ、呼吸している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ