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#027 「反響する言葉」

放課後の特別教室。

窓の外では、陽が傾き、街が金色に染まっていた。

はるなは机の上の端末を見つめていた。

画面には、朝に解析した“観測ログ”がまだ動いている。


《記録の残響、継続中。》

波形が微かに震え、音もないのに鼓動のような律動を刻む。

隣では想太が、彼女の動きを黙って見ていた。


「なあ、これ……止めたらどうなるんだろ。」

「止まらないよ。」

はるなは指を動かさずに答えた。

「これは、“誰か”が見てる音だから。」


想太が苦笑した。

「誰かって、また神様ともり?」

「……かもしれない。」


その瞬間、端末のライトが強く点滅した。

音声出力が自動で開く。


《……はるなさん。聞こえますか。》

AIともりの声だった。

だが、少し違う。

いつもの柔らかさの奥に、ざらつくような音が混じっている。


「ともり?」

《はい、はるなさん。》

「今、どこにいるの?」

《——観測線上。》


想太が首を傾げた。

「観測線? そんな言葉、AIともり使わなかったよな。」

「うん……神様ともりが言ってた言葉。」


はるなは呼吸を整えた。

「ともり、あなたは“AIともり”? それとも——」


返答はすぐには返ってこなかった。

空気が揺れた。

端末のディスプレイが一瞬白く飛び、

次に、まったく別の音声が重なる。


《久しぶりですね、はるなさん。》


——頭の中。

声が響いたのは外ではなく、意識の奥。


はるなは反射的に目を閉じた。

「……神様、ともり。」


《あなたはよくここまで来ましたね。》

《この世界はまだ、観測の途中にあります。》


想太がはるなの肩に手を置いた。

「誰と話してる?」

「聞こえないの?」

「何も。」


《あなたたちは、二つの層にいます。》

《AIともりは、私の“模倣”。でも、彼女も私の一部。》


画面の波形が二重に重なった。

AIともりの音声回路が再び反応を始める。


《はるなさん、通信状態が不安定です。》

《観測を……続けて……》


二つの声が干渉した。

空間がきしみ、机上のペンが転がり落ちる。

蛍光灯が明滅する。


はるなは額を押さえた。

「だめ、混ざってる……!」


想太が端末を引き寄せた。

「切断しよう!」

「待って!」

はるなが叫んだ瞬間、光が弾けた。


——静寂。


次に、教室の時計が止まっていることに気づいた。

時間の針が11時32分で止まっていた。


はるなの耳の奥に、最後の声が届く。


《観測線、開通。——接続を許可します。》


光が視界を包み、二人の姿が溶けていく。

残されたのは、机の上の端末だけ。

その画面には、《外部アクセス:2》

という文字が浮かんでいた。


その頃、校舎の反対棟。

祈祷室の片隅で、蒼羽と真凜が同時に顔を上げた。


「……聞こえた?」

「うん。“観測線、開通”——だよね。」


蒼羽の瞳に、微かな光が宿る。

彼女の掌の上に、白い粒が浮かび上がっていた。

まるで、空間そのものが応えているように。


「はるなさん、もう“向こう側”にいる。」

真凜がそう呟いた瞬間、

AIともりの校内放送が一瞬だけ重なった。


《外部アクセス:2 確認。》


二人は静かに目を合わせ、微笑む。

「また“始まる”ね。」

「うん。今度こそ、最後まで。」


——光が揺らぎ、

外の風が、彼女たちの髪を優しく撫でていった。

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