#021 「訪問者たち」
灯ヶ峰学園の朝は、いつもより少しざわめいていた。
AIともりの放送が、いつもより数秒遅れて響く。
「——おはようございます、皆さん。」
その声の柔らかさに、はるなは小さく息を止めた。
(また、変わった……?)
教室の扉が開く。担任の三浦先生が、二人の少女を伴って入ってきた。
「今日からこのクラスに転入する生徒を紹介します。」
前に立った少女たちは、同じ制服を着ているのに、どこか空気が違っていた。
片方は、淡い銀青の髪を肩で切りそろえた少女。
もう片方は、長い黒髪を三つ編みにした静かな瞳の子。
「蒼羽です。よろしくお願いします。」
「真凜です。」
教室の空気が一瞬だけ変わった。
その瞬間——はるなは胸の奥で“光の波”のような感覚を受けた。
(この二人……どこかで——?)
想太も小さく眉を寄せる。
「なあ、どっかで見たことある気がしないか?」
「……うん。昔。。。たぶん。」
いちかがぼそりと呟く。
「祠の……子たち?」
美弥が顔を上げた。
「まさか。あの子たち、もう……何年も前の——」
その言葉の途中で、AIともりの放送がノイズを走らせた。
《……ッ……新規認証……確認できません。》
教室全体が一瞬静止する。
ざわめきが凍りつく。
誰もが「何?」と顔を見合わせた。
ただひとつ、はるなと想太だけは違う音を聞いた。
——「ようこそ、観測者の子ら。」
耳の奥ではなく、頭の内側で響いた。
神様ともりの声。
AIともりの声よりも、ずっと深く、懐かしい。
蒼羽が小さく笑った。
「やっぱり、ここだったんだね。」
真凜が頷く。
「夢で見た通り。……“光の道”の始まり。」
彼女たちの言葉に、誰も意味を返せなかった。
ただ、空気の粒子が淡く震えているのを、はるなは感じていた。
机の上のペンが、かすかに揺れる。
チャイムが鳴る。
“始業の音”が遅れて響いた。
(また、時間が——)
想太が時計を見る。針は正しいのに、世界が半歩遅れている。
放課後。
昇降口で靴を履き替える蒼羽と真凜に、はるなが声をかけた。
「ねえ、二人は……どこから来たの?」
蒼羽が少し笑い、視線を上げる。
「久遠野の外。……でも、昔はここにいたの。」
「え?」
「忘れてるんでしょ、みんな。」
真凜がはるなの手を取った。
その掌が、ほんのり温かい。
まるで、光を通しているような感触。
「私たちは、“呼ばれた”んじゃないよ。」
真凜の声は静かで、でも確信に満ちていた。
「——“思い出した”の。ここが、帰る場所だって。」
その瞬間、空に風が通り抜けた。
校舎の影が一瞬だけ揺れ、AIともりの声が重なり合うように響いた。
「新しい観測線、確立。」
「……おかえりなさい。」
はるなは立ち尽くしていた。
胸の奥に、光が滲むような感覚が広がる。
(おかえりなさい……誰に?)
想太が隣に立った。
「……始まったんだな。」
はるなは小さく頷いた。
——世界が、また動き出す。




