#019 「日常の継ぎ目」
放課後の風は、昨日より少し冷たかった。
季節がゆっくりと切り替わるたびに、久遠野の街は、時間のつぎはぎのように見える。
空の色が夕方の境を曖昧にして、街灯がまだ半分しか点いていない。
その隙間を縫うようにして、六人の影が並んでいた。
「おつかれー、今日はなんか長かったね」
いちかが伸びをしながら言う。明るい声の奥に、空気の“ざらつき”が混じっていた。
美弥が足元の砂を蹴った。
「ねえ、あれ……見て。」
学園前の掲示板。古いポスターが一枚、ひらりと揺れている。
『久遠野市立灯ヶ峰学園 夏祭り —— 八月十五日開催』
赤い文字が夕日に染まり、今も現役の告知のように鮮やかだった。
「……これ、去年中止だったよね?」
美弥の声に、誰もすぐ返せない。
想太が近づき、ポスターの端を指で押さえる。
「紙が新しい。印刷も劣化してない。」
「更新されたのかな?」
隼人が言うが、要は首を横に振った。
「そんな通知、なかった。
学園の行事ログからは“夏祭り”の計画自体が削除されてる。」
いちかが端末を取り出し、AIともりに尋ねる。
「ともり、今日の日付は?」
『八月十五日、午後四時三十八分です。』
「……十五日? でも、今日は十四日のはず——」
『時刻同期は正常です。』
風が一度止まり、空気がぴんと張りつめる。
夕日が、街の輪郭をわずかに歪ませた。
はるなが一歩前に出る。
ポスターの下、剥がれかけた紙の隙間に、別の印字が覗いた。
白い紙に黒いQRコード。
小さく 「観測記録 / Resonator」 の文字。
想太の目が細くなる。
「これ……旧図書館の記録媒体と同じ銘。」
要が手帳をめくり、視線を落としたまま言う。
「アクセス権限、今の学園ネットワークには存在しない。
……まるで、外から誰かが干渉してるみたいだ。」
美弥が顔を上げる。
「——旧館で見つけた“共鳴構造体”のコードに似てるの?」
要はわずかにうなずいた。
「断定はできない。でも……同じ“系列”かもしれない。」
“外部”。
その語に、はるなの胸が跳ねた。
(閉じたはずの久遠野の外から、記録が——まだ届いてる?)
風が再び抜け、ポスターの角がめくれ上がる。
糊の剥がれた端がほどけ、紙片がひらひらと舞った。
光の筋に吸い込まれるように、欠片は空気へ溶けていく。
六人の影が、夕暮れのアスファルトに長く伸びた。
誰も言葉を発さない。
それぞれの胸の奥で、同じ感覚が静かに響く。
——日常の継ぎ目が、音もなくほどけていく。




