幸せのかたち
高野は部屋でひとりコーヒーをカップに注ぎため息をつく。
最近毎日のように中嶋の事を考える。彼が言った言葉
”俺が貰う” 思い出すたび心がざわつき焦り落ち着かない。
実は中嶋は有崎の事を好きなのではないかと…
有崎を中嶋に託して自分は身を引いた方が良いのでは…
だが、そう考えると身が引き裂かれる様に辛い。
嫌なほど気付かされてしまった…実は有崎を必要に…いや、
欲しているのは自分なのだと…
心は決まっているのに、この期に及んでまだ逃げている…
「今更何を迷っている…覚悟を決めろ!」
冬真を渡したくは無い…が…何かが心を引き留める。
ピンポーンと呼び鈴が鳴った。今日は土曜日、
有崎か?と思ったが今日は予定があると言っていた。
「誰だ?」
重い体を動かし玄関に行くと浩章が立っていた。
「おう、どうした?」
「どうした?じゃないよ!連絡しても返ってこないし、また
倒れてるかと思ったよ!」
そう言えば連絡が来ていたが返す気力も無く放置してしまった。
「ごめん、ごめん、ちょっと忙しくて」
浩章は高志の顔を覗き込んで
「違うね…兄貴…何かあった?」
「ん?いや…別に…」
「酷い顔してる…」
高志は参ったな…と思い何か良い理由が無いか考えていると
「そう言えば、冬真は?今日約束してないの?」
浩章は何気なく聞いたのだろうが、高志は”冬真”と聞き一瞬
身体を固めた。
「…今日は予定があるらしい…」
浩章は高志の反応でこの状態の原因を察した。
「もしかして…冬真の事で何かあった?」
「え?…」
「図星?」
図星ではあるが、浩章が何故そう思ったのか分からずにいた。
「何故…そう思った?」
浩章は否定しない高志を見て少し考えてから言葉を出す。
「…俺、冬真の気持ち知ってた…前から…」
そう言えば心当たりはある。熱が出た時も出張から帰った時も
浩章が冬真に連絡していた…そんな前から…だから冬真も感情が
分からない事を知っていたのか…
「…ヒロ…お前…」
「兄貴、最近変わってきてたし…冬真が好きなんでしょ?」
「……」
中嶋も言っていた…”見て取れた”と。浩章も気が付いていた
事に心が痛くなる。
「兄貴…自分の気持ちに気付いたんだね!分かったんだね!」
高志は黙って下を向き頷く。浩章は寂しそうに笑って
「俺ね、冬真なら兄貴を変えてくれるって思ってた…
だから応援してた、手助けしてた…心を取り戻して欲しくて…
…兄貴に幸せになって欲しくて…」
悲しそうに笑う浩章に高志は胸をしめつけられる。
「本当なら…俺が…救いたかった…俺の為に心を壊してまで
守ってくれたから…好き…だから…」
「…浩章…」
「でもね、俺には無理って分かった…でね、俺冬真も好きだよ。
だから、ふたりに幸せになって欲しいの!それが俺の望み
なんだよ」
「浩章、俺は…お前に辛い思いを…させていた…」
俺は浩章を守っていたつもりがこんなに追い詰めていたのか…
高志は大切な弟を苦しめていた事に心が悲しみに沈む。
「兄貴、違うよ!俺は兄貴と居て幸せだし、最高の兄さんだよ!
俺も最高の弟だろ!」
高志は涙を溜めながら頷く。
「ああ、最高の弟だよ!」
「だから、冬真をしっかりと受け止めてやって!」
「…ありがとう…浩章…」
真剣な眼差しで見つめる浩章に高志は泣くのを我慢する。
「兄貴…ひとつお願い聞いてもらってもいい?」
「うん?」
「…俺の事…抱きしめて欲しい…」
高志は強く抱きしめた。そして涙をこぼした。
「あ~あ、また泣かせちゃった…」
強く抱きしめられ呟きながら頭を擦り付ける。
浩章は抱きしめた手で高志の背中をパンと叩いた。
「兄貴、冬真の所に行って!」
「…ああ!」
高志は支度を始めた。その間に浩章は有崎に連絡をする。
「兄貴、冬真用事は済んで今はバイト先だった喫茶店に友達と
とふたりで居るって!」
「浩章!ありがとう、本当に俺の最高の弟だ!」
「知ってる!」
浩章は最高の笑顔で見送る。
高志は部屋を出た。浩章はソファーに座りひとり静かに泣いた。
今までの想いを流すように。しばらくして顔を上げて言う。
「良し!俺も次に進もう!」
浩章も部屋を出た。その顔は清々しい。
高野は急いで喫茶店に向かう。友達とふたり…多分中嶋と居るの
だろう…緊張で体が震える。
喫茶店に着き外から中を覗くと案の定中嶋と笑っていた。有崎の
笑顔を自分に向けて欲しいと中嶋に嫉妬をしている自分に気付く。
有崎も高野に気付き立ち上がる。高野は中に入り中嶋に言う。
「冬真を連れて行ってもいいか?」
中嶋はニッコリと笑い、そして
「どうぞ」
「ありがとう」
高野は中嶋に頷いて見せる。中嶋は笑って返す。
有崎が中嶋を見ると"いってらっしゃい”と手を振っている。
高野は二人の清算を済ませると有崎の手を引き外に出る。
「冬真、良かったね」
ふたりを優しく見守っていた中嶋だったが、ふたりが出た後
携帯を取り出し彼氏に電話を掛ける。
「あ、タケ?会いたくなっちゃった!今から行ってもいい?」
電話を切り残りのコーヒーをゆっくりと飲み干した。
「高志さん…」
有崎は状況が読めずに戸惑っている。
「冬真、今は何も聞かずについて来て欲しい」
有崎は繋がれている手に目が行く。嬉しい。
ふたりはタクシーに乗りあさひな遊園地に向かった。
「あさひな遊園地…」
呟く有崎に高野は微笑む。そして観覧車の前に立った。
「冬真、行こう!」
観覧車に乗り込んだ高野の様子に”もしかして…”と期待をして
しまう…感情が高ぶるが違うかもしれない…と落ち着かせる。
向かい合って座った高野は大きく深呼吸をすると、有崎の顔に
真剣な眼差しを向けた。心臓の音がうるさい。
「冬真、聞いて欲しい事がある…」
「…はい」
有崎の心拍が上がり身体が小さく震える。
高野は目を閉じ息を大きく吸ってゆっくりと吐く。
そして目を開けて言葉を紡ぐ。
「冬真…有崎冬真君、君が好きです。俺と付き合って下さい!」
有崎は驚き目を見開き高野を見ている。その目にはうっすらと
涙が滲んでくる。有崎はゆっくりと口を開いた。
「ずるい…ずるいです…」
涙を溜め真っ直ぐ高野を見つめる。
「俺がずっと前から…言いたかった言葉…
高志さんの事が好きで…好きなのに我慢して…」
有崎は泣きそうな顔で訴える。高野は困った様に微笑む。
「…冬真…」
「高志さんずるい…凄く辛かった…優しくされると好きが…
溢れて…言いたいけど言えなくて…だから…凄く嬉しいけど
…なんか…悔しい…」
「…冬真?」
「本当にずーっと好きだったんですよ!好きで好きで……」
有崎のその後の言葉は高野がそっと唇で封じた。
有崎は驚き、しかし優しいキスに目を閉じた。
目から涙が落ちる。ゆっくりと唇を離し高野は有崎の顔を見て
優しく微笑む。
「遅くなってごめん…冬真、俺のそばに居て欲しい…
隣で笑っていて欲しい…」
有崎を抱きしめる。有崎は胸に顔をうずめる。
「…冬真、返事をくれるかな?」
有崎は高野をきつく抱きしめ頷きながら
「…はい、そばに居ます!離れません!」
「はは、俺も離さないよ…大好きだよ、冬真」
「俺はもっと大好きです!!」
そしてふたたび唇を重ねる。ふたりの想いを確かめる様に
外は夕焼け色に空が染まる。
その中を観覧車はゆっくりと回っていた。
君の瞳に映る笑顔 ご覧いただきありがとうございます。 やっと高野は想いを伝える事ができました。この後、もう少しお話は続きますが、性的表現が出てきます。苦手な方はここで「完結」としていただきますようお願いいたします。
次回は土曜日「新たな気持ち」です。 次回もお楽しみ頂けたら幸いです。
あらかると




