平常心
「海~~~!」
浩章が叫ぶ。
残念ながら天気は曇天。寒い日になってしまったがふたりは
楽しそうに窓の外を眺めている。
「天気が良ければ綺麗な海が見れたのにな」
高志は車を運転しながら少し残念そうに言う。
「空いていて良いじゃん!」
浩章がはそんな事より美味しい海鮮丼に心が向いている。
「この辺りにお目当てのお店があると思います」
有崎は助手席で携帯の地図を見て案内をしてくれる。
「悪いね。ヒロのわがままに付き合わしてしまって」
「いいえ、俺がここのお店を見つけたので…高志さんに迷惑
掛けてしまいましたね…」
「いや、俺も食べたかったし、気分転換も兼ねていい機会
だったよ」
「……また、何か問題でもあったんですか?」
「え?…い、いや大した事ではないよ」
まさか君の事で…とは言えず高志は微笑んで誤魔化した。
有崎は高志の笑顔に恥ずかしそうに笑う。
「あ!兄貴、あそこの店かな?」
浩章は有崎の顔を見て慌てて話し掛けた。
うん、そうだね!と有崎の言葉に車を駐車場に止めた。
天気もあってあまり混まずすんなりとお店に入る事が出来て
3人共お店のお勧め贅沢海鮮丼を頼んだ。程なくして運ばれて
きた海鮮丼は色々な具材が綺麗に盛られており器からはみ出して
いる具の多さに驚きを隠せなかった。
「お…多いな…」
「大丈夫、余裕!」
驚いている高志とは対照的に浩章は嬉しそうに海鮮丼を食べる。
有崎も驚いていたが食べ始めると”美味しい”と嬉しそうだ。
何とか食べ切った3人は店を出て車に乗った。
「お腹いっぱい~!美味しかった~」
「で、次はどこ行くんだ?」
満足そうにお腹をさすっている浩章に高志は聞いた。
「え?次?…」
「…お前…まさか、食べるまでの計画か?」
「…はい…そうです!」
高志は頭を抱える。せっかくここまで来たのだから…
「浜辺にでも行ってみるか…」
ふたりは行く!と口をそろえた。海岸線を少し走ると夏は
海水浴の人で賑わうであろう砂浜に着く。
「うわ、人少ない…」
高志達を含めても10人はいないであろう。
「まあ、天気も悪いしな」
「でも、楽しまないとね~」
と、浩章は砂浜を駆けて波打ち際に近づいて行く。
「おい、転ぶぞ!…まったく…」
「子どもぽい所がヒロの良い所でもありますけどね」
有崎は笑う。
「冬真もおいでよ~」
浩章はが呼ぶ。有崎は砂浜を高志と一緒に歩いた。
ドシャ!と音がして浩章が思いっ切りこけた。
「あ~あ、ヒロ~大丈夫?」
有崎が走ろうと足を出した時、砂に足を取られてよろける。
「おっと!」
高志が有崎の体を支えて転ぶ事は無かったが有崎は高志の体に
触れて固まってしまっている。
「やばっ!」
浩章が砂だらけで駆け寄り
「兄貴、口に砂入ったから飲み物持ってきて~」
ぺっぺっとする。
「仕方ないな、砂ははたいておくんだぞ!」
呆れ顔の高志は車の方に歩いて行った。
「冬真、大丈夫?」
「あ、ありがとう…大丈夫。固まっちゃったけど…
…暴走はしないよ…」
良かった。と浩章が答えるが、先程高志が有崎を支えた時の顔が
今まで見たことも無いほど優しいく愛おしいそうな顔をして
いた事に浩章は気付いた。
「冬真…兄貴、変わってきてるかも…」
「え?」
「分からないけど…冬真の事…」
浩章は言葉を切る。
「冬真、兄貴の事…待ってあげてくれるかな?」
「…?うん…待つよ」
浩章はニコッと嬉しそうに笑った。
有崎は浩章の体をポンポンと叩いて砂を落としてやる。
「まったく、ヒロは気を付けてよ~!子どもじゃないんだから」
「…はい…」
お小言付ではあったが…
その後は近くの水族館に寄り海の生物を観察、イルカのショーも
見て楽しんだ。
浩章が高志の事を良くみていると有崎の事を大切に
寄り添い優しい顔で微笑んでいる。
「…兄貴…」
そんな兄に嬉しい様な寂しい様な感情が浩章の心に溢れる。
「そろそろ帰るか?」
水族館の出口に行くと外は雨が降っている。
「あ~あ、遂に雨降ってきちゃったね~」
浩章は黒い雲で覆われている空を見上げて言う。
高志は天気予報を検索して考え込んでしまった。
「これから大雨で警報が出ているな…」
「まじ?帰り大丈夫かな…」
浩章は高志の携帯を覗き込む。
「……2人共、明日の予定は何か入っている?」
「いや、無いよ」
「俺も有りませんが…」
高志は少し考えて
「帰り最悪高速が止まるかも…何処か空いていれば泊まるか?」
「え!泊まる!」
浩章は喜ぶ。高志は有崎を見ると”大丈夫です”と嬉しそうだ。
「じゃあ、決まり!」
高志は旅館を検索して電話を掛け予約を入れた。
旅館に着いた頃には雨脚も強くなりタイミング良く入れた。
「あ、兄貴、良い旅館だよ…ここ…」
「せっかくなので人気の宿にしてみました」
2人も喜んでいるので高志も微笑む。
部屋に入ると畳の匂いが香り安らぐ。
「あ…兄貴、食事までに戻るから先にお風呂行って良い?
砂が気になるから…」
浩章は冬真を一瞬見て言う。
「ああ、気にしなくて良いからゆっくり行ってこいよ」
「うん、ありがとう!冬真も行こうよ」
「う、うん、じゃあ先行って来ますね」
「ああ、ゆっくりな」
2人は浴衣を持ち部屋を出て行く。
「冬真、兄貴と風呂は厳しいよね…」
「うん、今はちょっと厳しい…ありがとうヒロ」
浩章は良いよ~と笑う。
ふたりが部屋から出ると体から力が抜けていく感覚に襲われ
ため息をついた。
「俺は冬真にいつも通りに接する事が出来ていだろうか…
…平常心…難しいな…」
外は振り荒れる雨が窓ガラスに打ち付けている。
高志は窓ガラスに手を当てて呟く。
君の瞳に映る笑顔 ご覧いただきありがとうございます。
次回は土曜日「揺れる想い」です。ふたりの想いをお楽しみ下さい。
あらかると




