居酒屋
「この企画が上手く進んだのも皆さんお陰です。
本当にありがとうございました。そして、お疲れ様でした。」
高野は会議で一礼し最後の挨拶を済ませると拍手と共に
お疲れ様~と声が掛かる。
途中ゾンビになりかけたりで高野にとってこの3週間
生きた心地のしない日々だったが
「お…終わった…やっと終わった…」
ドカッと椅子に座り大きなため息を一つつき
机に突っ伏した。放心状態の高野に皆 お疲れ~と
声を掛けへやを出て行く。
「よ~し!高野、行くぞ!飲むぞ!打ち上げだ!」
そう声を掛けて来るのは営業部の2歳年上の先輩、
弓月智彦だ、体育会系のノリで豪快な先輩は
優しい顔の細マッチョ。尚且つ面倒見が良い完璧イケメン。
ちょっと強引な所が残念だと高野は思う。
高野は入社当時、営業部に所属していてその時の
教育担当がこの弓月だった。
弓月の指導は丁寧に分かりやすく、何かとサポートを
してくれる頼もしい先輩だ。
体育会系の言動とかけ離れた細やかさだでギャップが凄い。
今でも企画部に顔を出し声を掛け気遣ってくれている。
ただ…高野にはスキンシップ多めなのが気になるが…
「高野はスイッチ入れば無敵なのにな~
また営業部に戻らないか?一緒に仕事しようぜ」
弓月は高野の横に座り、覗き込こみながら言う。
高野はビクッと身体を震わせた。
そう、高野はあがり症な為、営業に出てもクライアント先に
早く行き心のスイッチを入れるための準備をしなければ
ならなかった。
スイッチが入った高野は人が変わったように商談は進み
クライアントにもウケは良いのだが…
見かねた営業部の部長が企画部に配置換えしてくれたのである。
営業成績も良かった為に部長も苦渋の選択だった。
しかし今の様に枯れはてた高野を毎回見るのが不憫で
決断した経緯がある。
「無理です!また枯れました…再起動に時間が掛かります…」
「能力は高いのにな~」
まあ、いいや行くぞ! と高野を引きずり部屋を出る
「わ、分かりまた!行きますから~引きずらんで下さいよ~~」
高野の声がフロアーに響いた。
有崎は友人と飲みに居酒屋にきていた。
金曜の夜、どこも飲み屋は賑わっていて騒がしい。
先日一人の友人に内定通知が来たので4人全員の内定が
決まった祝いに飲みに来ている。
就活中は流石に飲みには出られないでいたので
久しぶりの飲み会と言う事でみなテンションが上がっている。
「みんな、内定おめでとう!会社は違うが今後の
飲み会にも参加するように!」
友人の1人が音頭をとると各々了解や勿論と頷く。
この友人達には有崎にとって数少ない気兼ねはなく
何でも話せる仲間である。
「そうだ、有崎 "気になる人" がいる会社に内定
決まったそうじゃないか!良かったな」
「うん、ありがとう」
「いいなあ~、社会人生活楽しみで!」
「気になるだけでどうこうするつもりは無いけど、
確かに楽しみではあるな」
友人たちはそつか~とにこやかに聞いてくれ
有崎も楽しく酒を飲む事が出来た。
たわいもない話を楽しんでいる時、隣りのボックス席が
騒がしくなりサラリーマンの団体が座った。
隣の席は少し広めで結構入れそうな感じだが
仕切りの板がある為どんな人達なのかはわからない。
「みんな、取り敢えずビールでいいか?
高野、枯れてるからたっぷり飲んで花開け!」
「無理でーす!」
隣から会話と笑い声が聞こえて来る
高野?隣に高野さんがいるのかな?
でも、枯れる????どうした?何があった?
枯れると言うワードが頭の中でぐるぐる回って
隣の会話が気になり友人の話しが
頭に入らなくなってしまって困ってしまった。
心地良い時間は早いもので22時を回ったころ有崎達は
店を出ようと席を立った時に、隣をチラッと見たが
高野を確認することは出来なかった。
聞き違いだったかな?有崎はちょっと残念に思い
高野に逢いたい、話したいと想いをはせる。
「じゃあな~また~」
と別れを告げ皆帰路についた。




