逢いたい…逢いたい…でも…
有崎は平日学校の研究室に居る。教授や後輩の手伝いをして
過ごしていた。中嶋は論文の最終確認をしているらしく忙し
そうでゆっくり話す時間は無い。
今はその方が都合がいい。中嶋と居れば高野の話が出てしまう。
それはキツイ…
だが…家に帰ればやはり考えてしまう。最初のうちは高野のから
電話が来たらどうしようとドキドキしていたが、その内電話が
来ない事に”嫌われたかな…”と心配になる。
高野の声が聞きたい…逢いたい…が日に日に増してしまう。
「高志さん…」
携帯のアドレスを開き”高野高志”の文字に寂しさを募らせる。
ボタンを押せば声が聞ける…が、あの抱きしめられた時の
記憶が蘇る。高野への想いがまた溢れて想いを口にして
しまうかもしれない…いっそ告白してしまおうか…
結果は分かっている。気持ちが分からない事で高野を苦しめて
距離を置かれるだろう…それに自分は耐えられない。
「はぁ~、逢いたいな~笑顔が見たい…」
抱きしめられた時の高野に包み込まれた感触を思いだす…
当時はパニックになっていたが今改めて思うと幸せに
感じてしまう…あの感覚をもう一度感じたい…
「はあ~、病んでるな、俺…」
あの日から何度この思考を巡らしているだろうか。
逢いたい…逢いたい…でも逢えない…
高野は仕事を終えて家に帰り暗い部屋の電気を付ける。
玄関から廊下を抜けキッチンが目に入ると有崎が立つ影をみる。
一緒に食事をしコーヒーを飲みたわいもない話しに花を咲かせる。
そんなひと時がもう随分前のように感じる…
まだ数日しかたっていないのに…自分がこんなにも有崎の事を
知らず知らずに求めていたとは…会えなくなるまで気が
付かなかった。舘石が言っていた”いつでも一緒に居たい”とは
この事なのだろうか…だが、これが恋なのかはまだ分からない。
ただ、胸に残る有崎の温もりをまた感じたいと思う事がある…
この感覚は友としての感覚では無い事は鈍感な自分でも分かる
特別な人に思う事なのだろう…
「やはり、俺は冬真の事を…好きになってしまったのだろうな」
この想いを消すにはどうすればいいのだろうか…
この想いを持って有崎に接してしまって自分がどうなるのか…
上手く隠せるものなのか…自分勝手な思いで有崎に迷惑を
掛ける訳にはいかない…
このままの関係で、想いを悟られず、今まで通りで…
俺はやっていけるだろうか…いや、やって行かなければいけない。
この感情は要らない物なのかもしれない…でも…
「はあ~、逢いたい………」
口に出した言葉がやけに重い。感情を消すために会わないと
決めたのに想いは募る…
恋の感情は辛いものなのだな…と思い知らされた…
逢いたい…逢いたい…でも逢えない…
有崎は久しぶりに学校の友人4人で集まった。
卒業旅行の話しをする為に。皆楽しそうに思いをはせる。
吉田がいつものように仕切っているがふと有崎に言う。
「有崎、どうした?なんか浮かない顔をしてるじゃないか?」
有崎は少し驚いたが疲れた様に微笑み
「え?そう?…最近ちょっと寝不足ぎみだからかな?」
「有ちゃん夜何しているのかな?卒論は落ち着いたんでしょ?」
川崎が顔を覗き込んでくる。
「最近、動画にハマって色々と見てると遅くなっちゃって…」
「あ~、分かる~次々と見ちゃうんだよねー」
有崎の返答に川崎が同意する。
その会話を聞いている中嶋は浮かない顔をしていた。
何か言いたそうな感じだったがこの日は何も言われずに別れた。
夜動画を見ているのは本当の事だ。ただ、内容は頭の中には
入ってこない。ぼーっと見ているだけ…考えないように…
心を空にしたいだけ…でも時より高野の笑顔が頭に浮かんで
くる。今までは笑顔が見たくて一緒に居た。今は…高野が…
高野の全てが欲しくなっている…寂しさが募る。
「何時までこうしていればいいのだろうか…」
また自分の想いを隠して、心の奥底に沈めて高野に笑えるまで…
逢いたい…逢いたい…逢いたい…逢いたい…でも溢れてしまう…
最近の休みの日は有崎との約束が入る事が多かった。
高野は休みは出来るだけ予定を入れず空けていた…が明日は何か
予定を入れようか…今までは何をしていたのか…数か月前の
事が思い出せない。休みの日がこんなにも憂鬱な事は初めてだ。
1月の終わりの週、雪がある地域でも行き雪景色でも撮りに
出掛けようか…そう思いカメラの画像を見るとグランピングで
撮った夕陽の画像が現れた…
高野はカメラを置き深いため息を付く。
「最近の思い出には冬真の痕跡が多すぎるな…」
少し前の良き友人…に戻らなくてはいけないのに…
有崎の笑顔が、温もりが欲しくなる。
「滝にでも打たれて煩悩を消して来るか…」
風邪を引いて寝込むのが目に見えている…
「滝は無理でも、ひと泳ぎして頭を冷やしてくるか…」
休みの日に近くの室内プールで無心で泳ぐ高野の姿があった。
逢いたい…逢いたい…でも…気持は沈める…
君の瞳に映る笑顔 ご覧いただきありがとうございます。
次回は土曜日「気付き」をお送りします。次回もよろしくお願いします。
あらかると




