想いの重さ
「いらっしゃい」
土曜の11時に高野の家の玄関には有崎の姿があった。
「お邪魔します」
「お礼なんて気にしなくて良かったのに」
有崎を招き入れる。
「いえ、高志さんが居なければ結美と話す事が出来ませんでした
感謝しています。ありがとうございました」
有崎は頭を下げた。
「やめてくれ、俺は一緒にいただけだよ。解決したのは有崎君
自身だからね。あれから連絡してるの?」
「はい、連絡取っています。ただ…結美…彼氏が出来たらしくて
…兄としては心配です」
「ははは・良いことなんだから喜んであげなさい」
「そうなんですが…ね~ぇ」
「気持ちは分からなくはないけどな」
2人は笑いながらキッチンに進む。
有崎は慣れた手つきで鍋をセッティングをしていく。
「高志さん、少し時間がかかりますのでゆっくりしていて
下さい…ちょっと疲れた顔をしていますよ」
「え?そう?…じゃあ仕事の残りをしてしまうかな」
「仕事、持ち帰って来ているのですか?」
「今回終わらなくてね…少しだけ」
高野はパソコンの電源を入れ仕事を始めたが、有崎が気になり
気が付くと手を止めて有崎を見ている…
ーーー俺は有崎君に特別な感情を持っているのだろうか…
確かに、嬉しい、楽しい、心地よい感情はある…後は守りたい、
愛おしい…愛おしい?ーーー
高野は”愛おしい”を検索してみた。
”可愛くて大切にしたい、好きと言う感情よりも深く、幸せを
願い尽くす。”
「おいおいおい、待て待て!」
確かに守りたいし幸せになってもらいたいが…
好きより深いってなんだ????
高野は頭が混乱してしまった。検索などしなければ良かった
と頭を抱えた。
「高志さん…本当に大丈夫ですか?百面相が始まってます…」
「あ、ああ、大丈夫。ちょっと悩み所があったから…」
高野は慌てて画面を仕事に戻した。仕事に集中していたら
「もう少しで出来ます」
有崎の声がした。高野は顔を上げて
「仕事も終わったよ。ありがとう」
食卓の方に移動すると料理が出来上がっている。
「ドリアかな?」
「はい、この間のデミグラスソースを真似してみました」
「凄い…」
「バイト先のマスターと料理は相談して良いものがあると
メニューに加えるんです」
「マスターも料理が上手なんだね」
「ワイワイ作るのが好きなんですよ」
有崎はとても良い笑顔を見せた。つられて高野も笑う。
今回の料理もとても美味しかった。
コーヒーを飲みながらたわいもない話をする。
こんな時間も心地良い。
少し休んでこの間行けなかったアウトドアショップに行く事に
した。ショップに着くとキャンプ道具の他に釣具、登山、
カヌーなどの色々な用品があり有崎は目を輝かせていた。
「色々有るんですね」
「有崎君は何が好きなのかな?」
「…名前が戻ってる……出来れば何でも挑戦したいです…」
有崎は少し拗ねてしまった。
「あ…ごめん、ごめん…2人の時だけでいいかな…冬真」
「仕方ないですね、許します」
とにこりと笑う。高野はホッとした。
有崎はグランピングの時に使ったのと同じ焚き火台を見て喜ぶ。
「あ~パパ、お船がある~」
「本当だ!カッコイイね」
7歳位だろうか男の子がお父さんと一緒にカヌーを見て
喜んでいる。
高野は自分が小さい時の事を思い出していた。
7歳の頃は何も考えずに好きな物に目を輝かせていたが
今はあの頃の気持ちが考えられない。少し寂しい気持ちに
なってしまった。
「高志さん?」
「いや、何でもないよ」
心配そうに有崎が見ていた事に気付いた高野は優しく微笑む。
「あっ!」
声と同時に男の子がよろけて壁に突進してしまいドン!と音が
した。壁に飾られている道具やポールなどが暴れ出し
止めていた金具が外れ有崎の頭上に降ってくる。
「危ない!」
高野は有崎に覆いかぶさり抱きしめた。ドコドコと高野の体から
音が聞こえる。
「高志さん!」
落ちた物が床にガラガラと音をたてて転がっている。
店内は静まり返り落ちた物の音だけが響いている。
「……冬真…大丈夫か?…」
「俺は何とも無いです!それよりも高志さん!大丈夫ですか?」
高野は痛みに耐えていてすぐには抱く力を抜くことが
出来なかったがやがて
「ああ、大丈夫…」
高野はゆっくりと有崎を解放した。
「お客様大丈夫でしょうか!」
店員が声を掛けてくる。高野は大丈夫ですと返し男の子の方に
行き声を掛けた。
「大丈夫?痛い所はないかい?」
「うん…ごめんなさい…」
「良かった」
高野は男の子に微笑む。男の子の父親が駆けて来て謝っている。
静まり返っていた店内はまたお客の声が戻った。
近くで固まっている有崎の心臓の音は店内にいる全ての人に
聞こえてしまうのではないかと思うほど高鳴る。
それは恐怖から来ているからではない…高野に抱きしめられた事
により高野に対する気持ちが溢れてしまっているからだ。
「冬真…本当に大丈夫か?」
高野に声を掛けられ我に返った。
「こ、高志さん、背中、背中見せて下さい!」
「ここで?大丈夫だよ。とりあえずお茶に行こうか?」
「え?でも…」
「一旦落ち着こう」
「はい…」
ふう~と息を吐き有崎も落ち着くために肩の力を抜く。
アウトドアショップを出て歩いていると。
「冬真…本当に大丈夫だから、そんな顔をしないでくれ」
高野が心配そうに有崎を見ていた。
「すみません、高志さんが心配で…早くお茶して帰りましょう」
有崎の言葉に、ははは、ちょっとはゆっくりさせてと笑った。
高野の笑顔に有崎は力が抜けて”はい”と答えてやっと微笑む
事が出来た。
有崎の心は重かった。
君の瞳に映る笑顔 ご覧いただきありがとうございます。
次回は土曜日「逢えない」をお送りします。次回もお楽しみ頂けたら幸いです。
あらかると




