恋心
「そうなんだ、妹さんの事は解決したんだね」
有崎は研究室で中嶋と話をしていた。
「うん、高野さんのおかげだよ」
「そう…で、どうするの?」
「え?何が」
「これから高野さんとの関係だよ」
「……変わらず…かな…」
有崎は研究室の道具を片付けている手が止まる。
このままでは居られない事は分かっていた。
強い心があれば高野に恋人ができても今までの関係で
居られるだろうが、そこまで強くない。
高野に告白しても完全な拒否はしないだろう…
だが、今の心地良い関係で無くなるのは目に見えている。
有崎はため息をついた。
そんな有崎を心配そうな顔で中嶋は見ている。
「どうにもできないよ…」
中嶋には聞こえないように小さく呟く。
今日も高野は舘石のマシンガントークに付き合わされていた。
が、今日の高野は様子が違う。
「高野君?今日は呆れ顔が少ないけど何かあった?」
「呆れてるのが分かっているのなら解放して下さいよ」
「え~、だって~カミングアウトしたの高野君だけなんだもの
他の人には言えないじゃない」
「さよですか~」
「で、どうしたの?聞かせてみなさい!」
高野は少し考えて舘石の顔を真っ直ぐに見て言う。
「……恋ってどんな感情なんですか?…」
舘石はキョトンとした顔になり
「……高野君…もしかして恋した事ないの?」
高野は寂しそうな顔をした。
「はい、たぶん…俺小さい頃から感情を閉じ込めて
自分の思いは捨ててきました。意思を無くした
生活だったんです。今思えば想いが上手く行かず
裏切られて傷付くのが怖かったんでしょうね…
だから、考える事を捨てた…心が動く事が無くなって
恋愛なんて考えた事も…」
「……寂しい事よね…」
「舘石さんの話を聞いて色々な感情を恋人に向けて
持っているのが分かった…俺が分からなかった恋の空白の
部分の感情ですよね…」
「そうね、好きな人には色々な感情が生まれるわよね。
楽しい事だけでは無いし辛い事も寂しい気持ちも…
みんな自分の心次第なんだけど…高野君も気になる
人でもできたかな?」
舘石は頬杖をつき聞いて来る。
「気になる?…分からないのですが…その人に係ると
自分の理解出来ない…今までに無かった感情が湧いて戸惑って
います」
「高野君、恋の感情に理由付けなんて出来ないのよ。
今の貴方は感じた事を素直に受け止めれば良いと思う」
「受け止める…」
「そうね、素直に!…難しく考えずに…たまには私も
役に立ったかしら?」
舘石はにこやかに言う。
高野はまだ腑に落ちないが今気持ちがモヤモヤして分からない
感情はもしかして”恋”の感情なのだろうか?
だとしたら、相手は…
有崎の事を思うと心がざわつく…これもそうなのか?
心も体もどっと疲れた感じがする。
あ~、早く帰りたいと思う高野だった。
一日の仕事を終え帰宅した高野は風呂に入り疲れた体を
ソファーに預ける。
「心が乱れるとこんなにも疲れるものなんだな…」
仕事で良く枯れてしまう高野だったがその感覚とはまた違う
疲れである。
「俺は有崎君の事を…好きなのか?…友情?…恋との違いが
分からない…しかも彼は男だし…」
だが同性だから好きになってはいけない訳ではない。
実際、高野は浩章にも篤にも告白されている。
2人に嫌悪感はまったく無かった。ただ、自分の心が分からず
答えられない葛藤はあったが…だからこんな感覚は初めてだ。
でも、有崎はどう思っているのか分からない。
確かに慕ってくれているのは分かるが、それは会社の先輩と
して、または話しやすい友人として付き合ってくれているだけで
恋の対象なんて全く思っていないと思う。
そう言えば、気になる人がいると言っていたな…どうなった
のだろうか…有崎に聞くのはやぼな話しだな…
こんな事は初めてで戸惑ってしまう。
「はあ~、恋って厄介な感情なのかもしれないな…」
ますます体は重くなるし…ため息が多くなる…
その時携帯の呼び出し音が鳴りディスプレイを見ると
有崎の名前が表示されていた。
高野の心臓が高鳴る…
「もしもし…高野です。」
動揺したのか言葉が詰まってしまった。
「有崎です…どうかしましたか?今都合悪かったですか?」
「いや、そんな事ないよ。大丈夫。ちょっと疲れたかな~」
「大丈夫ですか?また枯れました?」
「違うから平気平気、ははは。」
「……本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
高野は優しく呟いた。
「うっ!…なら良かったです…」
高野は有崎の反応が変な感じだが、まあいいかと話を続けた。
「何かあった?」
有崎はんんっ!と咳ばらいをして要件を話す。
「先週は結美の件ありがとうございました。
お礼に土曜日空いているならご飯でも作りに行こうかなと
思ったのですが、予定はどうですか?」
「え~、空いてます!嬉しいな!喜んで!」
「ははは、分かりました。では土曜の11時頃お邪魔します」
「はい、待ってます!何を作ってくれるの?」
「内緒です!楽しみにしていて下さいね」
「うん、楽しみにしてるよ」
「はい、ではお休みなさい、高志さん」
「うん、お休み」
「…何か忘れてませんか?…名前呼んで下さいよ」
「え?…えっと…冬真…]
名前を口にすると胸が高鳴り顔が火照るのが分かった。
有崎は嬉しそうな声で言う。
「はい、お休みなさい!」
電話を切った後に高野は頭を抱えた。
「この感情は厄介だ~!!!」
次の日高野は考え過ぎて寝不足になっていた。
君の瞳に映る笑顔 ご覧いただきありがとうございます。
明けましておめでとうございます。今年も高野&有崎をよろしくお願いいたします。
次回は土曜日「想いの重さ」です。 楽しんで頂けたら幸いです。
あらかると




