巻き込まれて…
「高野君にお願いがあるの」
正月休みを終えて日常が戻ってきたある日。
社食でまったりと食事をしていた高野に
経理部の舘石綾香が声を掛けてきた。
「ん?何でしょう?」
舘石は高野の前に座ると
「私とお付き合いして欲しいの!」
「うぐっ…げほげほ…げほ…ごほっ…げっほげほ…」
「だ、大丈夫?」
高野は口に含んだお茶を危うく吐き出すのを止めたが気管に
思いっ切り入ってしまい苦しそうに咳き込む。
「だ、ごほっ…だいじょう…ぶじゃあ…ごほっ…ないでずっ」
高野はひとしきり咳をして落ち着くと真顔になり舘石に向いた。
「んんっ…あの…」
「ちょっと待って!」
「え?」
「今お断りモードに入ったでしょう!」
「……はい…すみませ…」
「ストップ!違うの!聞いて!」
「はあ?」
舘石は実は…と話し始める。
最近ある男性に交際を申し込まれたのだが好きな人が
居るからとお断りしても信じてもらえず困っている。
だから高野に彼氏役をお願い出来ないかと。
「そういう事ですか、先に言って下さいよ!」
「いや~、高野君ってからかいがいがあって…つい」
「勘弁してください…で、どうすれば?」
「え?協力してくれるの?」
「断ったら許してくれますか?」
「許さな~い」
「ですよね…」
高野はやはり…と諦める。
「今度の日曜日、一緒に買い物に行ってもらいたいの。
たぶん接触してくると思うから…」
「良いですけど、社内で噂立ちますよ、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だと思うよ~、高野君だし!」
高野は怪訝そうな顔をする。
「高野君は人望厚いでしょ、それに男女関係なく人気あるし」
「人望?人気?…何の事でしょう…」
「高野君ってさりげなく周りに気を使える人でしょ?
だからかな~、後、人畜無害だし」
「はあ?…人畜無害…」
「本当に自分の事は分からない人よね~女性に興味がないのも
バレてるし、また巻き込まれてるな~みたいに思うだけだよ」
「興味無い……まあ、俺は良いですけど…実際、巻き込ま
れてるし」
舘石はふふふと笑った。
「詳しくは後で連絡するわ」
よろしくね~と手を振って去っていった。
「また、とんでもない事になったな~」
ため息をつき席を立った。
「高野~、春が来たか~!」
弓月がニコニコと企画部に乗り込んできた。
「弓月先輩…また、サボっているのですか?」
「人聞きの悪い事言うなよ!デートだって聞いたからさ」
高野は弓月を睨みつけた。
「先輩、事情を知ってますよね…」
ははは、と笑いうんうんと頷く。
「お前また、巻き込まれてるな~」
「何故そんなに楽しそうなんですか?」
「楽しいよ!って、冗談はこの辺で、彼女は相当参ってる
らしいぞ、付け回されているらしい」
「ストーカーですか?」
「まあな、それがただつけて来るだけで何もしてこないらしい」
「まあ、されたら困りますが…なんか嫌ですね」
「だから、お前に白羽の矢が立ったんだろうな」
弓月はニコニコとしている。
「……先輩が、彼女に俺の事言いましたね…」
「適任だろう」
高野はため息をつき弓月を見て言う。
「先輩…これも先輩に貸しですからね…」
「俺か?」
高野が睨みを決めると”はいはい”と弓月が首をすくめる。
「後、聞きたいのですが…」
「なんだ?」
高野は少し考えて
「俺って人気が有るって聞いたんですが…」
「ん?」
「ん?」
「今更?」
「い、いま…さら?…」
ははは、気をつけろよ~と手を振って帰っていった。
隣の同僚を見るとうんうんと頷いている。
「どういう事なんだ」
高野はため息をついた。
隣から肩たたきが…
「はあ~」
高野からため息が止まる事はなかった。
君の瞳に映る笑顔 ご覧いただきありがとうございます。
次回は土曜日「人の想いはそれぞれ」をお送りいたします。次回もよろしくお願いします。
あらかると




