表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命を超えた掟  作者: 玄月陰
4/4

第四章:掟を超えた絆

天蒼山脈に朝日が差し込み、烈焔宗の領地に新たな光が降り注いだ。紅華は小屋の中で眠る藍風を見守りながら、夜通し考え続けていた。藍風の発情期を支えたことで、彼女の心に芽生えた揺らぎは、もはや抑えきれなかった。


幼い頃、彼が泣きながら薬草を探してくれた記憶、そして試練で自分を打ち負かした力――藍風の優しさと強さが、紅華のプライドを溶かし、彼女に新たな真実を見せていた。


彼女は烈焔宗が誇る最強のアルファだったが、藍風の存在がその誇りを超え、彼女の心を揺さぶっていた。宗門の現実が彼女を待っていた。暗影宗の脅威が再び迫り、長老たちは紅華に掟の履行を迫っていた。


藍風が目を覚ますと、彼は静かに紅華を見つめた。発情期の疲れが残る顔だったが、その瞳には穏やかな光が宿っていた。彼は扇を手に持ったまま、かすれた声で呟いた。


「紅華、俺をそばに置いてくれてありがとう……でも、これで終わりじゃない。暗影宗が来る。俺は、お前を守るために戦うよ」


紅華は一瞬言葉を失ったが、すぐに目を鋭くした。アルファの本能が戦いの予感に反応していた。


「私も戦う。お前一人に任せるつもりはない」


藍風は苦笑し、扇を握り直した。その意志は揺るがなかった。


「昔みたいに、背中を預け合おう。どんな未来でも、共に生きるために」


その言葉に、紅華の胸が熱くなった。彼女は焔華を手に持ったまま、小屋を出て議事堂へと向かった。だが、その道すがら、彼女の心は揺れていた。


「藍風を失うくらいなら、掟を捨ててもいい……でも、宗主としての責任は?」


幼い日の記憶が再び蘇った。崖での救出、薬草を差し出す藍風の笑顔――あの優しさが、彼女を今も支えていた。


---


議事堂に集まった長老たちは、紅華を厳しい目で見つめていた。烈風老人が口を開いた。


「紅華、暗影宗が霊脈を狙い、再び動き出した。お前が宗主として立つには、掟に従い、藍風と結ばれる必要がある。だが、彼がオメガである以上、宗門の名誉はどうなる?」


灰袍の蒼雲老人が声を荒げた。


「オメガを伴侶とするなど、烈焔宗の歴史に泥を塗る行為だ! 藍風を追放し、新たな試練を設けるべきだ!」


紅華は黙って聞いていたが、胸の中で怒りが燃え上がっていた。藍風を侮辱する言葉が、彼女の心を刺した。彼女は焔華を床に突き立て、鋭く言った。


「藍風を侮辱するな。彼は私を打ち負かした。それが掟の結果だ」


烈風老人が眉をひそめた。


「だが、彼はオメガだ。武力だけで強さが決まるわけではない。宗主の伴侶にふさわしいか、疑問が残る」


翠嵐が反論した。


「武力だけでなく、彼は知恵と意志を示した。試練の勝利は偶然ではない」


その時、議事堂の扉が開き、藍風が姿を現した。彼は青墨色の長袍を纏い、疲れた顔に強い意志を宿していた。藍風は長老たちを見据え、静かに口を開いた。


「私がオメガであることは事実だ。だが、紅華を守るためなら、武力だけでなく知恵も意志も尽くす。それが私の強さだ」


長老たちがざわめく中、藍風は一歩進み出た。


「暗影宗の次の襲撃は、三日後の夜。霊脈の東側から奇襲をかけるつもりだ。私が都で得た情報と、試練で培った戦術を活かせば、烈焔宗を守れる」


烈風老人が問うた。


「その情報、確かか?」


藍風は扇を開き、静かに答えた。


「私の命を賭けて確かだ。紅華に受け入れられなくても、彼女と宗門を守る。それが俺の覚悟だ」


その決意に、長老たちの表情が揺らいだ。紅華は藍風を見つめ、彼の言葉が心に響いた。武力だけでなく、知性と意志で宗門を支える――それこそが、藍風の真の強さだった。アルファとしての彼女も、その力を認めざるを得なかった。


---


その夜、暗影宗の襲撃が現実となった。東側の霊脈を守るため、紅華と藍風は共に戦場に立った。暗影宗の術師が黒鱗の蛇を率い、霊術で烈焔宗の弟子たちを圧倒していた。紅華は焔華を手に炎龍舞を繰り出し、炎の龍が蛇を焼き尽くした。


アルファの霊気がその威力を増し、戦場に熱風を巻き起こした。一方、藍風は扇から風刃を放ち、敵の動きを封じる。彼の戦術は的確で、事前に仕掛けた罠が発動し、地面から突き出た風の刃が敵を混乱に陥れた。オメガの彼が示す知恵は、ベータの域を超えていた。


戦いの最中、暗影宗の術師が紅華を狙い、黒い霧を放った。彼女は焔華で霧を切り裂いたが、その隙に蛇が背後から襲いかかった。紅華が一時劣勢に陥った瞬間、藍風が叫んだ。


「紅華、下がれ!」


彼は扇を振り抜き、風刃で蛇を切り裂いた。さらに、罠を起動させ、術師を足止め。紅華は藍風の背中を見ながら、試練での敗北が偶然ではないことを悟った。彼は幼馴染としての絆を武器に、彼女を越える力を手に入れていたのだ。紅華は焔華を握り直し、藍風の横に並んだ。


「昔みたいに、背中を預けるよ」


藍風が笑みを浮かべ、二人は連携して術師を打ち倒した。戦いが終わり、霊脈を守り抜いた烈焔宗に勝利の歓声が響いた。


---


翌日、烈焔宗の闘技場で公開の集会が開かれた。弟子たちや長老たちが集まる中、紅華は中央に立った。彼女の隣には藍風が控えていた。紅華は焔華を手に持ったまま、深呼吸し、声を張り上げた。


「烈焔宗の皆に告げる。私は掟に従い、試練で私を打ち負かした藍風を伴侶とする。彼こそが、私にとって最強の存在だ!」


観衆がざわめく中、紅華は藍風を見た。


「彼の勝利は、幼馴染としての絆がもたらした奇跡だ。武力だけでなく、知恵と意志で私を支えてくれた。オメガだろうと何だろうと、そんなことは関係ない。藍風は、私の選んだ男だ」


長老たちの反対の声が上がった。


「オメガを宗主の伴侶に?」「宗門の名誉が!」


蒼雲老人が立ち上がり、強く抗議した。


「歴史を汚す気か!」


だが、翠嵐が反論した。


「名誉とは実力だ。藍風は暗影宗を退けた。それ以上の証明がいるか?」


烈風老人が立ち上がり、議論を制した。


「紅華の言う通りだ。藍風は強さを証明した。掟を超えた絆が、ここにある」


紅華は焔華を振り上げ、炎を放って静寂を強いた。アルファの霊気が闘技場を圧倒した。


「反対するなら、私が宗主の座を捨ててもいい!」


その覚悟に、長老たちは言葉を失い、観衆から拍手が沸き起こった。


藍風は紅華を見つめ、初めて笑みを浮かべた。


「紅華、俺を信じてくれてありがとう」


彼は扇を閉じ、紅華の手を取った。その瞬間、彼の胸に秘めていた愛とオメガの本能が融合し、彼女と向き合う決意が固まった。


「紅華、俺はお前と生きる。どんな未来でも、共に」


紅華は頷き、彼の手を強く握り返した。


「私もだ、藍風。新たな未来を、共に切り開こう」


---


集会が終わり、二人は闘技場の端で夜空を見上げていた。月光の下、藍風の甘い発情香が紅華を包み、彼女はそれを心地よいと感じた。アルファの本能が初めてそれを拒まず、受け入れていた。その時、斥候が駆け込んできた。


「紅華様、藍風様! 暗影宗の残党が山脈の北で新たな動きを! 霊獣を再び召喚しているようです!」


紅華は焔華を手に持った。藍風が扇を開き、静かに言った。


「まだ終わらないか。でも、俺たちなら大丈夫だ」


紅華は笑みを浮かべ、藍風の肩に手を置いた。


「そうだな。一族の掟を超えた私たちなら、どんな敵でも倒せる」


暗影宗との戦いはまだ続くが、彼らには互いを支える力が宿っていた。烈焔宗の新たな歴史が、ここから始まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ