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運命を超えた掟  作者: 玄月陰
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第一章:再会と過去の影

テーマ:「Ω男性(弱者的立ち位置)に振り回されるΑ女性(強者的立ち位置)もいいじゃんね」

コンセプト:

・中華ファンタジー×オメガバース

・幼馴染同士の恋愛

・強い女の子が侮っていた男の子に負ける


この作者は男性優位女性庇護系の恋愛ネタを書くので、それを念頭に置いていてください。

オメガバース設定は独自解釈&設定でやってるので雰囲気だけ楽しんでもらえたら。

オメガバースを知らなくとも、なんとなく掴んでおけばokです。

「この設定ならオメガバじゃなくてもいいんじゃね」と言われましたが、作者はΩに組み敷かれるΑが書きたかったのでこれで書きます。


よろしくお願いします。

雲霞がたなびく天蒼山脈の麓に、烈焔宗れつえんしゅうの領地が広がっていた。切り立った峰々を背に赤銅色の城壁が陽光を浴びて輝き、宗門の旗が風に翻る。赤瓦の屋根が連なる宗門の中心で、次期宗主の紅華ホンファが立っていた。


烈焔宗が誇る最強のアルファ女性である彼女は、緋色の戦袍を纏い、霊剣「焔華」を手に持っていた。黒絹のような髪が風に揺れ、鋭い赤い目はまるで燃える炎を宿しているようだ。彼女の存在自体が、烈焔宗の不屈の象徴だった。


天蒼帝国ではアルファ――「皇王種」と呼ばれる者たちは霊脈の力を引き継ぎ、神獣と契約を結ぶ天命を受けた存在とされ宗門や王朝を率いる指導者となる。紅華もまた、その血と霊気によって烈焔宗の頂点に君臨する運命を背負っていた。


烈焔宗は数百年にわたり天蒼山脈を支配してきた名門だが、近年、隣接する暗影宗あんえいしゅうが霊脈を巡って勢力を拡大し、両者の間に緊張が走っていた。


紅華は一族の掟に従い、宗主の座を継ぐ準備を進めていた。その掟とは、「公開試練で自身を打ち負かした男と結ばれねばならぬ」というもの。幼い頃から無敗を誇る紅華に挑む者などおらず、彼女はその掟を笑いものとさえ思っていた。


アルファである彼女にとって、霊子種――オメガと呼ばれる者たちの発情香に惑わされることなく、自らの力を示し続けることが何よりも重要だった。オメガは霊脈と深く結びつき、定期的な霊潮と呼ばれる発情期に甘い香りを放ちアルファを惹きつける存在。だが、紅華はそのような本能に支配されることを潔しとせず、烈焔宗の誇りを守るため戦い続けてきた。


その日、宗門の広場に援軍が到着したとの報せが入った。紅華が足を踏み入れると、そこに立っていたのは見覚えのある男――藍風ランフォンだった。青墨色の長袍を纏い、腰に白玉の佩玉を下げた彼は、都で名を馳せるベータの官僚として知られていた。


黒絹のような髪に緑の目。整った顔立ちに冷ややかな眼差しが宿り、かつての幼馴染とは思えぬ威厳を放っている。ベータ――凡人種と呼ばれる者たちは、霊性が中庸で、仙術や武術の修練によって力を得るが、アルファやオメガのような天賦の才を持たない。紅華の胸が一瞬ざわついた。


「藍風……お前が援軍だと?」


彼女の声には驚きと苛立ちが混じっていた。脳裏に幼い日の記憶が蘇る。天蒼山の深い森、霊獣を追って崖の縁に足を踏み外した紅華を、藍風が小さな手で掴み、必死に引き上げてくれた。あの時、彼は涙を流しながら「紅華、死なないで」と叫んだ。その声が今でも耳に残っている。


だが、その後の武力勝負で紅華が彼を軽々と投げ飛ばした記憶が、彼女の中で藍風を「弱者」として刻み込んでいた。ベータである彼に、アルファの彼女を凌駕する力などあるはずもないと信じていた。


藍風は紅華を見据え、静かに口を開いた。


「烈焔宗の危機を聞き、都から駆けつけた。暗影宗の動きを抑える策を講じている」


その声は落ち着いており、感情を窺わせない。紅華は眉をひそめた。再会の喜びよりも、彼の冷淡な態度に苛立ちが募る。


「お前が策を講じる? 昔の弱虫が何をできるというのだ」


藍風の瞳が一瞬揺れた。彼は扇を手に持ったまま、わずかに唇を噛んだが、すぐに表情を消し、黙って背を向けた。その背中を見つめながら、紅華は言い知れぬ違和感を覚えた。藍風の香り――微かに甘く、どこか懐かしい香りが漂っていた。


それは、アルファである彼女の本能を微かに揺さぶるもので、オメガの発情香に似た気配を感じさせた。だが、藍風はベータのはず。紅華は一瞬その考えを打ち消した。


---


その夜、暗影宗の斥候が烈焔宗の領地に侵入したとの急報が入った。紅華は即座に戦袍を纏い、焔華を手に戦場へと向かった。月光の下、黒衣の刺客たちが霊術を繰り出し、烈焔宗の弟子たちを圧倒していた。紅華が剣を振るうと、炎が渦を巻き、敵を一掃する。


彼女の動きは流れる水の如く優雅で、炎の如く猛々しかった。弟子たちが「紅華様!」と歓声を上げる中、彼女は焔華を振り上げ、次なる敵を睨みつけた。アルファの霊気は、烈焔宗の炎を象徴する力そのものだった。


だが、戦況は厳しかった。暗影宗の刺客たちは数を増し、影から這い出るように霊獣を召喚した。黒い鱗を持つ蛇のような獣が咆哮を上げ、弟子たちに襲いかかる。


紅華が焔華を振り下ろし、炎の刃で獣を切り裂くと、刺客の一人が暗器を放った。彼女はそれを軽やかに避けたが、その隙に別の刺客が背後から迫る。剣を構え直す間もなく、危機が迫ったその瞬間、青い光が閃いた。


刺客が地面に倒れる。見ると、藍風が手に持つ扇から霊気を放ち、風刃で敵を翻弄していた。彼の動きは無駄がなく、まるで舞を舞うように優美だ。扇を一振りするたび、鋭い風が敵を切り裂き、刺客たちは次々と退却していった。


紅華は目を疑った。ベータであるはずの藍風が、こんな力を隠していたのか? 幼い頃、彼女に軽くあしらわれた彼が、アルファに匹敵する霊気を操るとは。


「下がれ、紅華!」


藍風が叫び、彼女の前に立ちはだかった。彼の扇から放たれた風が蛇型の霊獣を切り裂き、黒い血が飛び散る。紅華は一瞬呆然としたが、すぐに焔華を握り直し、藍風の横に並んだ。


「下がるのはお前の方だ! 私が守られるなどありえん!」


彼女の声に藍風がちらりと視線を向け、かすかに笑った。


「昔と変わらないな、お前は」


その言葉に紅華の胸が熱くなった。二人は背を預け合い、刺客と霊獣を次々と倒していった。月光の下で舞う二人の姿は、まるで炎と風が調和するかのようだった。戦場が静寂に包まれた時、紅華は藍風を睨みつけた。


「お前、どうしたんだ? ベータ如きがこの力を……」


藍風は扇を閉じ、静かに答えた。


「都で学んだ術だ。それ以上でも以下でもない」


その言葉に嘘はないようだったが、紅華の胸に疑問が芽生えた。戦場での藍風の動き、彼の冷淡な態度、そしてあの甘い香り――それはオメガの霊潮が放つ発情香に似ており、彼女の本能が何かを感じ取っていた。


---


翌日、烈焔宗の議事堂で作戦会議が開かれた。藍風は暗影宗の動きを分析し、霊脈の守りを固める策を提案した。


「暗影宗は夜襲を得意とし、霊獣を操る術に長けている。霊脈の結界を強化し、斥候を増やせば、彼らの動きを封じられる」


彼の言葉は理路整然としており、宗門の長老たちも頷かざるを得なかった。紅華は黙って聞いていたが、心の中では苛立ちが渦巻いていた。藍風がこんなにも有能であることが、アルファとしての彼女のプライドを刺激したのだ。


だが同時に、彼の声に耳を傾ける自分に戸惑いも感じていた。あの弱い藍風が、こんなにも頼もしく見えるなんて。


会議の後、紅華は藍風を呼び止め、二人きりで話す機会を作った。議事堂の裏庭、霊樹の木陰で、彼女は単刀直入に切り出した。


「お前、昔とは別人だな。あの弱虫がこんな力を隠していたとは」


藍風は一瞬目を伏せ、やがて静かに答えた。


「弱虫だったのは事実だ。だが、紅華、お前を守れなかったあの日の悔しさが、俺を変えた」


その言葉に、紅華の胸が締め付けられた。崖での記憶が蘇り、藍風の涙が彼女の心に刺さる。だが、彼女は感情を押し殺し、冷たく言い放った。


「守る? お前が私を守るなど笑いものだ。私は烈焔宗の次期宗主、最強のアルファだぞ」


藍風は苦笑し、目を逸らした。


「そうだな。お前はいつも強かった」


その声には寂しさが滲んでいた。彼は扇を手に持ったまま、霊樹の葉を見つめた。紅華はその横顔を見ながら、言いようのない動揺を感じた。


藍風の香りがまた鼻を掠め、彼女の心を乱した。甘く、柔らかく、どこか切ない香り――それはアルファである彼女の本能を揺さぶり、オメガの霊潮が放つものとしか思えなかった。


---


藍風はその夜、自室で一人、扇を手に持ったまま窓の外を見つめていた。都での暮らしは、彼に多くのものを与えた。術を学び、官僚としての地位を築き、かつての弱さを捨て去った。だが、心の奥底では、紅華の笑顔が消えなかった。


崖で彼女を助けたあの日の記憶、薬草を渡して「これで治るよ」と笑った瞬間、そして彼女に投げ飛ばされてもなお「紅華は強いね」と笑った自分。あの頃の純粋な気持ちが、今でも彼を縛っていた。


彼は扇を握り潰すように力を込めた。自分の秘密――オメガであるという事実を、紅華に知られるわけにはいかない。都で術を学びながら、彼は霊潮を抑える薬を調合し、本能を押し殺してきた。


表向きはベータとして振る舞い、発情香を隠してきたのだ。だが、紅華の近くにいると、その薬さえ効かなくなるような感覚があった。彼女の強さ、彼女の熱が、彼の心を乱し、霊子種としての本能を呼び覚ます。


「俺はただ、お前を守りたいだけなのに……」


藍風は呟き、目を閉じた。彼の手が微かに震えていた。


---


紅華もまた、自室で焔華を手に持ったまま、藍風のことを考えていた。戦場での彼の姿、議事堂での冷静な言葉、そしてあの甘い香り。彼女は幼い頃の記憶を辿った。藍風が崖で彼女を助けた後、二人で森を抜ける途中、彼が薬草を探してくれたことがあった。


怪我をした紅華のために、彼は小さな手で土を掘り、泣きながら「これで治るよ」と差し出してくれた。その優しさが、紅華にとって初めての「守られる」感覚だった。だが、その後の武力勝負で彼女は彼を投げ飛ばし、笑いものにした。あの時、藍風は黙って立ち上がり、笑顔で「紅華は強いね」と言った。それが彼の最後の笑顔だった。


紅華は焔華を握り潰すように力を込めた。藍風が強くなったことが嬉しいのか、悔しいのか、自分でも分からなかった。だが、彼の香りが頭から離れない。


あの本能を揺さぶる甘さが、彼女に何かを訴えていた。アルファである彼女が感じるこの感覚は、オメガの発情香でしかありえない。だが、藍風はベータのはずだ。彼女の直感が揺らぎ、疑問が膨らむ。


「藍風……? あいつは何か隠している」


彼女の鋭い本能が、そう告げていた。暗影宗との戦いが迫る中、藍風の存在が紅華の心を乱し続けていた。そして、彼女はまだ知らない。藍風がオメガであるという秘密が、二人の運命を大きく変えることを。

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