休み時間
近頃、休み時間になると愁が俺の教室に来る事が増えた。
そのせいか、クラスのみんなも愁に気軽に声をかけるようになっている。
「置田君、山之内君がお待ちよ」
トイレから帰ってくると、愁といる坂田美咲に声をかけられた。
「そうそう、山之内君が出るミュージカル、姉と一緒に見に行くのよ。
チケット取るの大変だったんだって」
「ありがとう。アイドルのサヤリンが出るし、主役も人気俳優だからね」
「お姉ちゃん、その俳優のファンなのよね」
「そうなんだね。僕も見てね」
「もちろんよ」
坂田と愁がミュージカルの話で盛り上がっている。
「愁、最近うちのクラスによく来るな」
「冬弥と話したくて、つい」
「え……」
言葉に詰まってしまった。
「お前ら、付き合ってるの~?」
と畑野が茶化してきた。
「そうだよ~」
と愁が俺の肩に手をまわした。
「山之内ってウケる」
と畑野もすっかり愁を受け入れている様子だ。
「愁、冗談でもやめろよな」
「あ、ゴメーン」
愁は全く悪く思っていないし。
愁が俺の肩に手をまわした時、恥ずかしながらドキッとした。
耳が熱い。何だよ、俺。
「そういえばさ、介護施設で演奏するんだって? 母さんから聞いた」
「うん。冬弥が聞かないし言うの忘れてた。一緒に練習してると楽しくて」
「俺も演奏に必死で聞くの忘れてたわ」
お互い一緒に笑った。
愁と話すと気分が良くなるし元気になる。
「愁、先生が呼んでいるわよ」
ふいに教室の前の扉から見知らぬ女子が現れた。
「葵生か。分かった」
「冬弥、またあとで」
愁がその女子の方へ行き教室をあとにした。
去りぎわ、その女子に睨まれたような気がする。
「誰、誰、さっきの美少女」
畑野がはしゃぎ気味で聞いてきた。
「さあ、知らないけど」
「あの子は野上葵生。山之内君と同じ芸術科の子よ。確か中学も一緒で幼馴染みらしいわ」
と坂田美咲が教えてくれた。
「すごい可愛かったよな~」
畑野は嬉しそうだ。
「そう? なんかツンケンしてる。ねぇ、置田君」
と坂田がむくれている。
「そうだったかな? よく見てなかったわ」
確かに美少女の部類に入ると思うが、それほど印象は残らなかった。
それより、最後に睨まれた方が気になる。
愁は人気者だからな。
頻繁にうちのクラスに来るのが気に入らないのか?
まぁ、どうでもいいか。
先生の用事は何だったのだろう。
わざわざ呼びにくるくらいだし。あとで聞くことにしよう。