新しい曲
「おかえり」
学校が終わり家に帰ると愁と母親が応接にいた。
「どうしたんだよ?」
「冬弥、愁君が新しい楽譜を渡したいらしいわよ」
「これなんだけど、冬弥の伴奏で歌ってみたいんだ。ミュージカルの楽曲なんだけど、いつか出演できたらなと思っていてね」
と愁が照れたように微笑んでいる。
「分かった。練習しておくよ」
「あ、それと約束のチケット持ってきたよ。2枚あるのでお母さんもどうぞ」
「えー、愁君が出るの?嬉しい。冬弥、一緒に行きましょうね」
「う、うん」
愁のやつ、すっかり母親の心を掴んでいるな。
初めて観るミュージカルが母親と一緒とは。
少し恥ずかしいが1人で行くよりはいいかと納得した。
愁は楽譜を渡すと用事があるらしく、すぐに帰ってしまった。
「愁君って、カッコイイわよね。お母さんがハーフだったはずよ」
「そうなんだ。知らなかった」
母親が言うまで知らなかったし、気にした事がなかった。
髪は栗色のクセ毛で、瞳は茶色っぽかったか。
言われてみれば、目鼻立ちがハッキリとしているか。
男前だもんな。
「あなた、愁君の事は何も知らないのね」
「そうだな。プライベートはあまり聞いてないわ」
そういえば、愁の父親は再婚したと言っていたな。
「そうそう、介護施設で演奏するのでしょ。頑張って」
「え、そうか。聞くの忘れてた」
「もぅ、あなたって人は」
と母親が呆れている。
伴奏する事に精一杯すぎて、どこで披露するのかいつも聞き忘れている。
うっかりしすぎているな。
とりあえず、渡された楽譜を持ちレッスン室に入った。
知らない曲なので、スマホで調べてみた。
調べてみるとシェイクスピアのあの有名な恋愛悲劇の曲のようだ。
ミュージカルは自分にとって馴染みがないので、いまいちよく分からない。
歌って踊って演技してって感じだよな。なかなか難しいことをする奴だ。
愁が恋愛悲劇か。そのミュージカルを演じる愁を見てみたい。
カッコイイだろうなと想像している自分がいた。