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彼の音色  作者: 千莉々
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自宅レッスン

「母さんのピアノ教室がまだ終わっていないから、俺の部屋で少し待とう」

「お邪魔しまーす」


 愁は玄関できちんと靴を揃えた。今日は俺の自宅で歌の練習をする日だ。


 2階へ上がり俺の部屋に入った。

「へぇ、綺麗な部屋だね。冬弥らしい」

「そうかな?」


 いつも通りと何食わぬ顔をしたが、実は昨日は珍しく部屋を片付けた。

 男同士とはいえ、さすがに初めて部屋に通して汚いと思われたくない。


「冬弥って勉強熱心だね。参考書や問題集がたくさんあるし使い込んでる」

「そうだな。まぁ、ピアノの練習よりは勉強の方が好きかな」


「ピアノ、嫌いなんだ。上手いのに」

 と残念そうに愁が言った。


「愁は歌や音楽は好き?」

「好きだよ」

「そっか。スゴイな」

 何がスゴイのか良く分からない返答をしてしまった。

 誰もが認める才能と実力があり、しかも好きだと言ったことが羨ましく眩しかったのだ。


 ドアをノックする音がし、ドアを開けると

「冬弥、レッスン室あいたわよ」

 と母親が声をかけてきた。


「あら、誰かと思えば愁君じゃない」

「お邪魔してます。弟がお世話になっています」

「弟?」

「冬弥ったら、お友達って愁君だったんだ。お母さんの生徒さんで利人(りひと)

って子いるでしょ。愁君の弟さんよ」

「へぇ」

 と言いながら、どんな子か分からなかった。


「どの子が弟?」

 レッスン室に入り発表会の集合写真が飾ってあったので愁に聞いてみた。

「これが利人だよ」

「小学生?」

 2年前、俺が最後に発表会に出た時の写真だが、愁の弟は小学生の低学年くらいだ。


「年が割と離れているんだな」

「うん、そうだね。この時は小学1年生。お父さんの再婚相手の子供なんだ」

「あ、ゴメン」

「いいよ。お母さんも優しいし、利人も僕に懐いているから」

 と愁は笑顔だ。

「そうなんだ。良かったな」

 気の利いた事が言えない自分が情けない。


「さぁ、練習しよう」

「あぁ」


 2回目の練習だけあって、お互い落ち着いた感じだ。

 時折、愁がリズムの速さや、音の強弱など要望してくる。

 それに答え、俺も真面目に取り組んだ。


 ふと時計を見ると練習を始めてから2時間たっていた。

 時間があっという間に過ぎていた事に驚いた。


「冬弥、愁君。ちょっと一息しない?晩御飯でも食べなさいよ」

 と母親が声をかけてきた。


 父親は単身赴任の為、愁と母親と俺と3人で夕食にした。

 いつもは2人で食事をするが、今日はお客さんがいて母親は嬉しそうだ。

 愁は母親のたわいもない会話に笑顔で答えている。


 食事が終わり、駅まで愁と歩いた。

「今日は何か気を遣わせたよな。母さんの話に付き合ってさ」

「いいよ。楽しかったよ」

「そうか? うちの母さんは楽しそうだったな。俺は静かだからな」

「また、遊びに行っていい?」

「あぁ」


 愁と別れ、家に向かった。

 自然と鼻歌を歌っている。浮かれているな、俺。

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