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初めてのミュージカル 後編

 いよいよ開幕だ。

 音楽が鳴り響き、ステージに光がさした。


 舞台の時代は200年以上前のヨーロッパで、貧困に苦しむ民衆が、自由と平等を求め革命を起こす話だ。


 貧しい青年役の主演男優が舞台に上がった。

 テレビでよく見ていた人だと思いテンションが上がった。


 サヤリンも出てきた。やはり可愛い。

 そして、目の前で聞く伸びやかな歌声に感動した。

 近くで見る事ができ本当に嬉しい。


 ついに待ちに待った愁が登場した。

 メイクしている愁はいつも以上に華やかで、あまりの美しさに圧倒される。

 俺の視線は愁に釘付けだ。

『愁、スゴイよ!』心の中で叫んだ。

 愁にだけライトが当たっているように見える。


 今日の愁は、太く張りのある歌声で民衆と共に戦っている力強さを感じる。

 歌いながら激しく踊る愁から目が離せない。

 俺の視線は愁ばかり追っていた。

 いつのまにか舞台の世界観に引き込まれていた。


 一幕が終わり、20分ほどの休憩になった。

「愁君、素敵だったわ。歌もダンスも凄いわ」

 母親はいつもより高い声だ。

「うん。普段と随分と違う」

 冷静に答えたが、心は弾んでいる。


 母さんは、この舞台のDVDが欲しいと言い予約受付に行った。


 俺も少し遅れてロビーに行き、思い切って愁のブロマイドを買った。

 2種類あったが両方買った。自分では頑張ったと思う。

 愁に知られたらと思うと顔が熱くなった。


 二幕が始まるので急いで客席に戻った。

 愁がくれたチケットの席は1階で、舞台の真ん中よりだ。

 座席の前と横が通路になっていて、圧迫感がなく見やすい場所だ。

 愁の心配りは、今更ながら感心してしまう。


 二幕は出演者達の歌やダンスはさらに激しく、熱気に溢れている。

 愁もまた、熱く歌い、軽やかに踊っている。

 普段の甘く柔らかい感じと全く違うが、ひときわ輝いている。

 ミュージカルを初めて見るが、すっかりハマってしまった。


 あっという間に舞台は終盤を迎えた。

 多くの俳優達が壇上で声を合わせ歌っている。

 感動のクライマックスだ。


 ステージの照明が落ちると、客席から拍手が沸き起こった。

 俺も感動で涙をこらえながら拍手した。

 拍手は鳴りやまない。

 立って拍手している人がたくさんいる。


 暗かったステージにパッと照明がついた。

 ストーリーの雰囲気とは違う明るい曲調が鳴り響き、出演者たちが順番に奥から舞台に出てきて深々とお辞儀していく。

 愁の番がきた。

 力強い表情から打って変わって、いつもの爽やかな笑顔だ。

 俺は力いっぱい拍手した。

 一瞬、目が合ったような気がしたが勘違いだろう。


 最後は主演女優、主演男優の順に出てきて拍手はより大きくなる。


 ふと横を見ると母さんはタオルハンカチで涙を拭っている。

 あと数回は観たいと思うくらい、素晴らしいミュージカルだった。

 今日が最終日だというのが残念だ。

 母さんがDVDを予約してくれたので楽しみにしておこう。

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