新学期
3学期が始まり、数日が過ぎていった。
「置田君! 昨日、山之内君が出てるミュージカルに行ってきたよ」
クラスメイトの坂田美咲が話しかけてきた。
「へぇ。どうだった?」
「山之内君、すごくカッコ良かった。置田君はいつ行くの?」
「俺は次の日曜」
「いいな、千秋楽の日じゃない」
「千秋楽?」
「公演最後の日よ。チケットは人気なんだから」
知らなかった。俺の行く日が最終日なんだ。
そんな特別な日のチケットを渡してくるなんて。
愁は男前なことをするな。
「東京公演が終わったら、大阪公演みたいよ」
「愁も大阪に行くのかな?」
「ううん。山之内君は東京公演だけみたい。うちのお姉ちゃんは、主演俳優さん目当てに大阪公演も行くって言ってた」
「大阪まで見に行くんだ。すごいんだな」
「完全な追っかけね」
熱心なアイドルのファンは全国各地に行くって聞いたけど、舞台俳優もそうやって観に来てくれるんだ。
愁にも熱烈なファンがいるんだろうな。
「なぁ、坂田。大阪公演では違う人が愁の役をするの?」
「主演俳優と主演女優と山之内君の役はWキャストなの」
「Wキャスト?」
「同じ役が2名いてね。公演回によって出演者が変わるの」
「そうなんだ」
「大阪公演で山之内君は出ないし、もう1人がずっと出演するようよ」
「へぇ」
「山之内君は学生だしね。学業も大事よ」
「そっか」
「置田君、知らなさすぎる」
「坂田は詳しいな」
「ちゃんと山之内君に教えてもらいなさいよね」
と呆れていたが、すぐにフフッと笑っていた。
1週間ほど、愁と会っていない。
知らず知らずのうちに溜息をついている。
今頃、舞台を頑張っているんだろうな。
体調を崩していないだろうかと愁の事で頭がいっぱいだ。
あの時ソファに押し倒されてから、愁への思いが大きくなっている。
何もなかったものの、気になって仕方がない。
授業が全く頭に入らない。
こんな自分にイライラしてしまう。
休み時間になった。
「最近、山之内を見ないよな。どうしたのかな?」
と畑野が聞いてきた。
「今、ミュージカルに出演してるからさ」
「そっか。あいつ、よくうちのクラスに来てたからさ。置田の事、めっちゃ好きだよな」
「はぁ? 何言ってるんだよ」
声が裏返り真っ赤になった俺を見て、畑野はぽかんと口を開けた。
「何だよ、その声」
と吹き出している。
畑野は深い意味はなかったのだろう。
俺としたことが……かなり焦ってしまった。
はぁー、本当に愁の舞台が待ち遠しい。




