気まずい夕食
今、俺は愁と2人きりで自宅にいる。
「お茶でも入れるわ。そこのソファに座ってて」
「うん」
愁も俺も少しソワソワしている。
「そうそう。愁にお土産があるんだ」
俺はお土産の箱を手渡した。
「愁、甘い物が好きだろ」
「何で知ってるの?」
「だって、バイキングでスイーツ食べてる時、すごく嬉しそうだった」
「嘘。恥ずかしい」
「意外だったけど、可愛かった」
というと愁は赤くなっていた。
「バームクーヘンだね。一緒に食べよう」
「うん」
愁の隣に座った。少しドキドキする。
「お母さんの実家は、どうだった?」
「いつもと変わらないかなぁ。そういえば、婆ちゃんが愁のこと知ってたよ」
「そうなんだ」
「子役の時の愁、可愛くて歌も上手かったって言ってたな」
「覚えていてくれて嬉しいな」
「それから、俺が愁のピアノ伴奏した事を『スゴイなぁ~』って驚いてた」
「いいなぁ、お婆ちゃん」
「あっ!」
そうだ、愁は大好きだったお婆ちゃんを亡くしたんだった。
愁は微笑んでいるが、目が寂しそうに見えた。
「いつか俺の婆ちゃんの家に遊びに来いよ。喜ぶはずだよ」
「ありがとう。楽しみにしてる」
することもなく、年末に録画予約していた映画を一緒に見ることにした。
晩ご飯はどうするか尋ねようと愁を見ると、横で眠っていた。
舞台の練習で疲れているのだろう。
クローゼットから毛布を持ってきて掛け、そっと眼鏡をはずした。
そして、愁の顔をじっと見入ってしまった。
綺麗な横顔だな。
思わず顔を近づけてしまった。
俺は何をしようとしているんだ……
とその時、愁が目を開け俺の手首を掴んだ。
「冬弥。何しようとしてるの?」
愁は意地悪っぽく微笑み、俺はソファに押し倒された。
俺は愁と見つめ合っている。
わぁ、どうしよう。心臓がバクバクする。
どうにでもしてくれーと思った時だった……
「冬弥! ご飯は食べたの?」
と母さんの声がした。
「え? え?」
俺たちは、すぐさま離れてソファに座りなおした。
「あら、愁君じゃない」
「こんばんは! お邪魔してます」
焦りながら、愁が母親に挨拶をした。
「どうしたんだよ?」
俺は母さんに聞いた。
「心配で帰ってきたの。お父さんも一緒よ」
父親がリビングに入ってきた。
愁が立ち上がり父親に向かって挨拶した。
「はじめまして。山之内愁です。お邪魔しています」
「噂通りハンサムだね。冬弥と仲良くしてくれて有難う」
「僕の方こそ、ありがとうございます」
愁は礼儀正しい。これが女子だったら親はもっと驚き心配するのだろう。
ゴメン。父さん、母さん。
俺はさっき、愁とどうにかなりそうだったんだ。
愁も俺も顔が赤い。
「そうだ! 愁君もこれ食べていきなさいよ。新大阪駅で買ったの」
と母親が赤い箱に入った豚まんを食卓に置いた。
「たくさん買ってきて良かったわ」
「ありがとうございます」
そして俺と愁は、俺の両親と一緒に食卓を囲み豚まんを食べた。
俺達が、気まずい空気を漂わせていることに両親は気づいていないだろう。




