母の実家
1年ぶりに母さんと兵庫県の祖父母の家に来た。
単身赴任中の父さんは、明日の大晦日にこちらに到着するらしい。
祖父母の家はそれほど広くはないが、日当たりが良く居心地がいい。
リビングの食器棚には俺が1歳くらいの時の写真や、小学校の入学式の写真などが飾られている。ちょっと恥ずかしい。
祖父は豪快な感じの人で、祖母はおっとりとしているがよく喋る。
母さんのお喋りは、祖母譲りなのだろう。
「冬弥君、久しぶりやね。1年見ない間にお兄さんっぽくなって」
と祖母に言われた。
「そうなのかな?」
「冬弥、来年は高校3年やな。大学はどうするんや?」
「爺ちゃん。一応、理系の国公立大学を受けようと思ってる」
「冬弥は頭いいからな。自慢の孫や。もし音楽大学に行くって言いだしたら、どうしようかと思っとったわ。」
「もう、パパ。音楽はダメなの?冬弥、ピアノ上手かったのに」
と母さんが反論する。
「男が音楽してどうするねん。食べていかれへんやろ」
「もう、私は音大に行ったのに」
「お前は女の子やからイイねん」
そうか、音楽で生計を立てるのは一般的には難しいのかもしれない。
けれど、愁は才能もあるし努力もしている。
あの美しい声でずっと歌い続けてほしい。
「冬弥ったらね。同級生の山之内愁君の歌の伴奏をしたのよ。介護施設での演奏会、感動したわ」
と母親が祖父母に話した。
「あの山之内愁君の伴奏を?冬弥君、スゴイなぁ」
と祖母が驚いている。
「愁の事、知ってるの?」
「子役の時に見たわ。可愛いし歌も上手かったわ」
祖母はミュージカルや演劇など、舞台が好きらしい。
俺も子役時代の愁を見てみたかったな。
愁は今、どうしているかなと思った。
大晦日は年越しそばを食べ、お正月はいつも通り、祖母手作りのお雑煮やおせち料理を食べ、のんびり過ごした。
俺は愁の事が気になり、学校の宿題やテスト勉強があるからと言い、先に1人で家に戻る事にした。
「冬弥、1人で大丈夫?」
と母さんが心配したが、全く問題ないから大丈夫だと安心させた。
新大阪駅で愁のお土産を買うことにした。
『愁は甘い物が好きだからな』
個別包装の小分けされたバームクーヘンを買った。
新幹線の座席に着き、今から戻る事を愁にスマホで連絡した。
ちょうどお昼頃なので、構内で買った駅弁を袋から取り出した。
新幹線でお弁当を食べるのは、何だかワクワクする。
味も、まぁまぁで満足した。
昼食をとった後は眠くなり、目が覚めた頃には到着まで20分くらいだった。
その時、愁からメッセージが入った。
『今、品川駅に着いたよ』
え? もしかして迎えに来たのだろうか?
携帯を見ながらニヤニヤしてしまった。
誰かに見られていたら恥ずかしい。
愁がいるのかもしれないと胸を躍らせながら改札を出ると、
「冬弥~!」
と手を振る背の高い男が近づいてきた。
「愁。ビックリしたよ。今日は稽古はないの?」
「今日は休みだよ」
愁は薄いグレーのパーカに紺のジャケットに黒のデニムパンツというラフな服装だ。
そして眼鏡をかけていて、いつもと感じが違うがカッコイイ。
「今日は眼鏡なんだ」
「似合ってる?」
「うん。似合ってる。賢そうに見えるよ」
「何、それ~。ヒドイな」
愁は期末テストで『赤点だったらどうしよう』と言っていた割には、成績は悪くなかったようだ。器用な奴だな。
「冬弥。今日は僕オフだし、今からどうする?」
「俺の家に来る? 誰もいないんだ」
愁は少し驚いたような顔をした。




