突然の訪問
愁に気持ちを打ち明けられてから、俺は落ち着かない。
2学期の期末テストまで2週間ほどだ。
今、成績を落とす訳にはいかない。
今、勉学に支障が出ると愁が気にするかもしれない。
それに、愁にカッコつけたいという思いもある。
愁は見た目も性格も何もかも俺よりはるかに優れている。
俺が勝てるとしたら勉強くらいだ。
よし、頭を切り替えるんだ。
英語は割と得意だが、国語は昔から苦手だ。
国語が得意な人は、読書好きが多い気がする。そう、俺は読書をしなかった。
そして読書感想文がメチャクチャ下手くそで、あらすじになってしまう。
理系の国公立大学志望だが、国語も最低限は克服したい。
高3になったら予備校にでも行くか。
得意な数学の問題集をし、キリがいいところで一息ついた。
そんな時、スマホが鳴った。LINEだ。見てみると愁からだった。
『冬弥、今、何してる? 起きてるよね?』
『試験勉強してた』
『僕は舞台の練習が終わって帰る途中』
『大変だな』
何となく愁が近くにいるような気がして、窓の外を見た。
愁が、こちらを見上げている。
何してるんだ、アイツ。こんな寒空で……
俺はダウンジャケットを羽織り、マフラーを持って急いで下へ降りて行った。
「愁、何してるんだよ」
「どうしてるのかなと思って、つい……」
鼻の頭が真っ赤になっている。
「こんな寒い夜に、風邪引いたらどうするんだよ。体のこと考えろよ」
俺は手に持ったマフラーを愁の首に巻いた。
「暖かい。ありがとう」
愁は少し元気がないように見えた。
「どうかしたのか?」
「ううん。大した事はないよ。演技とか思うようにいかなくて」
「これからだろ。お前なら出来るよ」
上手く励ませない自分がもどかしい。
「早く帰ってゆっくり休めよ」
「そうだね。冬弥に会って、ちょっと元気出た」
俺は近くでタクシーを拾える所まで連れていき、愁を車に乗せた。
愁は窓から手を振っている。俺も手を振った。
携帯を見ると23時半だ。世話の焼ける奴だ。
けれど、会えたことは嬉しくて寒さを忘れていた。
「俺も帰って寝よう」
家に帰ると母さんがリビングから顔を出した。
「冬弥、何してたの?」
「ちょっと気分転換にウォーキング。もう寝るわ」
「そう。寒いんだし気を付けなさいよ」
「うん、分かった」
携帯を見ると愁からLINEが入っていた。
『おやすみ』
俺も同じく『おやすみ』と送った。
もう、なんだ。寝られるかよ。




