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告白

 俺は平静を装っているが、内心はパニック状態だ。

 たった今、愁に「好き」と言われた。「好き」って何だ。


「あの~、それって、いわゆる友達としての、そういった感情ってことだよな?」

「違うよ。もっとそれ以上の恋というか……引くよね」

「いや、引きはしないけど。ちょっとビックリしてる」


 お互い立ち止まったまま、海に向かい暫く無言だった。



「愁はカッコいいし、モテるし、どうして俺?」

「なんでだろ。初めて冬弥のピアノを聞いた時から、僕は君に引き込まれて夢中になったんだ」

「俺のピアノ?」

「うん。冬弥が中学3年の時の発表会。利人が出るから見に行ってたんだ」

「あー、あの時」

「冬弥の演奏に衝撃を受けた。ブレのない音の美しさに驚いた」

「やめてくれ。淡々と弾いているだけだよ」

「僕はあの時、久しぶりに心が晴れたんだよ」

 と愁は俺の目をジッと見た。


「大好きだったお婆ちゃんが亡くなってね。ずっと沈んでいた僕の心に光が差したんだ。冬弥に救われた。また歌おうと思った」

「あんな演奏でそう言ってくれるのは嬉しいけど……」


「介護施設での演奏会を見て、お父さんが初めて僕の歌を褒めてくれたんだ」

 俺は愁の話をじっと聞いた。


「お父さんがね、『お前の歌で多くの人が癒される事が分かった。頑張りなさい』って言ってくれた。すごく嬉しかったんだ」

「当たり前だ。愁の歌で俺も何度も感動してる」

「ありがとう。冬弥、君のお陰だよ」

「俺は何も……」

 愁は目を赤くしながら、満面の笑顔だ。


「愁。俺もお前のことは気になるし尊敬してるし好きなんだと思う。けど、それが恋愛感情なのかどうか。正直分からないんだ。ゴメン」

「うん」


「俺も真剣に考えるよ。少し待ってくれないか」

「分かった。待ってる」


 愁と俺は目的もなく、ただただ歩き続けた。


「ねぇ、冬弥。またピアノを始めようとは思わないの?」

「それは思わないな。愁との演奏会は楽しかったよ」

「それじゃ、僕だけの伴奏者だね」

 と茶目っ気たっぷりに微笑んだ。

 大人っぽい見た目に反して可愛らしい奴だ。


「愁の伴奏者として恥じないよう、最低限の練習はしておくわ」


 何を隠そう、愁にピアノ伴奏を頼まれて以来、俺は毎日欠かさず指練習をしている。

 おかしなものだ。

 あんなに練習が苦痛だったのに、今は率先してピアノに向かっているのだから。


「それはそうとさ、来月は期末テストだよな。愁は勉強してる?」

「全く。マズイね」

「俺も、そろそろ気合入れて勉強しないとダメだ」

「僕さ、来年のミュージカルの練習が本格的に入ってくるんだよね」

「それな。チケットくれたやつだよな」


「練習が忙しくて、冬弥と会えなくなるのは寂しいな」

「そっか。その分、俺は勉学に励むわ」

 と冗談っぽく答えると、愁は少しふくれっ面だった。

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