次の約束
昨日は一睡もできなかった。
愁との演奏会で胸が熱くなり、気持ちが高ぶったままだった。
それに、小さな声だったが「好き」と言われた事に動揺している。
どういうつもりなのか……
寝不足で頭がボーっとしたまま学校へ向かった。
愁と会った時、どんな顔をしたらいいのだろうか。
昇降口で上履きに履き替えていると、ばったり愁と出くわした。
「あっ!」
お互い驚いたように一瞬固まった。
「冬弥。おはよう。昨日はありがとう。感激しすぎて眠れなかったよ」
「おはよう。俺も何だかハイテンションになってさ。寝不足だよ」
2人で照れ笑いしながらモジモジしてしまった。
「それはそうと、冬弥。今度の日曜は空いてる?」
「予定はないけど」
「お父さんがさ、お礼をかねて食事でも行ってきなさいって、
お小遣いくれたんだよね。どうかな?」
「俺の方こそ楽しかったのに悪いよ……でも、せっかくだし行くよ」
「良かった。じゃ、また連絡する」
「ああ」
愁と別れ、お互いの教室に向かった。
いつも通りの会話ができて、ほっとしている。
教室に入り席に座るとクラスメイトの西野恭子が話しかけてきた。
「置田君。昨日の介護施設でのコンサート、とても良かったよ」
「え……来てたんだ」
「うん。うちのお婆ちゃんがあの施設にいてね。お母さんと一緒に見てたの」
「恥ずかしいな。けど、愁の歌は良かったよな」
「置田君もピアノ上手くてビックリした」
「え~、何、何。いいなぁ。私も行きたかった」
「俺もー」
と坂田と畑野が話に入ってきた。
「介護施設での演奏会なんだし、お前達は入れないよ」
「なんだ、つまんない」
と坂田が拗ねている。
「でもさ、置田って中学の合唱コンクールでは毎年ピアノ伴奏してたよな」
と畑野に言われた。
「うん。してたな」
中学時代、クラス別の合唱コンクールでは毎年ピアノ伴奏担当だったので、歌った事がない。
「そうそう、男子でピアノ伴奏してるの置田君だけだったけど、すごく上手かったよね」
と坂田に言われ照れくさい。
「あの時の置田、カッコ良かったぜっ」
と笑いながら畑野が茶化す。
畑野と坂田とは中学が一緒だったが、話すようになったのは高校のクラスメイトになってからだ。
今日は眠たすぎて授業に集中できない。愁も眠れなかったと言っていたな。
頭が重い状態で、なんとか午前中の授業を耐えた。
やっと昼休みか。
お弁当を食べ、畑野と話していても愁が気になる。
昼休みにふらっと現れるのに今日は来ない。
「ちょっとトイレに行ってくるわ」
と畑野に声をかけ教室を出た。
たまには俺も愁の教室訪問でもするかと思い、愁のクラスの方へ行った。
芸術科クラスは俺の校舎の向かい側にあるので、渡り廊下を歩いた。
すると、向かいの校舎に入った所で愁に出会った。
「どうしたの? 冬弥」
「えっと……ちょっと散歩」
「なんだ。僕に会いにきたんじゃないんだ」
「うーーん。まぁ、どうしてるのかなとは思ってた」
愁はいつもの爽やかな笑顔だ。
「今度の日曜なんだけど、冬弥は何が食べたい?」
「俺は何でも。でも、激辛だけは苦手だ」
「それは僕もダメ。苦手だし喉に刺激あるしね」
確かに、愁は喉が命だ。大事にしないといけない。
「じゃ、また連絡するね~」
と愁に言われ、自分の教室に戻ることにした。
愁と休日にご飯か。ワクワクして少し目が冴えた。




